書評/映画評

【本日の一冊】「選ぶ」より「捨てる」方が重要 ~「捨てる力」(羽生善治著)

「選ぶ」より「捨てる」方が重要
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「捨てる力」(羽生善治著、PHP研究所)
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最近、私がよく考えるのが「捨てる」というテーマです。

情報を無限にためこんでも、身動きができなくなります。
24時間、スマホを手放せず、情報を集めることには熱心な人が大部分ですが、
「情報を捨てる」という発想を持っている人は少ないものです。

また、記憶にしても、
たくさん記憶すればいいというものではありません。

私の『読んだら忘れない読書術』
読んだ人にはおわかりのように、
本を読んだら、一冊、まるまる暗記しましょう、
という本ではありません。

その本から得た「気付き」をしっかりと記憶して、
自己成長につなげましよう、ということ。

つまり、重要な部分はしっかりと記憶はするものの、
そうでない部分は、ザックリと捨てていいのです。

膨大な情報が日々飛び交う情報化社会の中で、
情報を「捨てる」ということをしないと、
情報の海の中で溺れてしまいます。

ほとんどの人は、すでに情報の海で溺れているのに
それに気付いてすら、いないのかもしれません。

先日、「捨てる」というテーマで検索していると、

将棋の羽生善治名人の「捨てる力」という本が
検索結果にかかってきました。

羽生さんの本は、「大局観」「決断力」など、
どれもおもしろい。

「大局観」は、
『読んだら忘れない読書術』の第8章。
「精神科医がお勧めする珠玉の31冊」の中の
一冊としても取り上げているほどです。

しかし、この「捨てる力」というのは、読んでいませんでした。
Kindleで読める、ということなので、即買して、早速読んでみました。

「山ほどある情報から自分に必要な情報を得るには
“選ぶ”より、”いかに捨てるか”の方が重要である。

手は浮かぶものではなくて、消去して残ったものになります」

「人間の記憶にはキャパシティがある」

「新しいものを入れるためには、必要のないものは”忘れる”」

あるあるの連続です。

Amazonレビューの批判に、
「当たり前のことしか書かれていない」というのが、
よくあります。

私の『読んだら忘れない読書術』にも、
そうしたレビューがついています(笑)。

「当たり前のことしか書かれていない」というのは、
言い換えると
「基本的なことが、しっかりと書かれている」という
ことなのです。

羽生さんの本には、
「目新しいこと」は、ほとなど書かれていません。

ほとんどが「当たり前」のこと。
「そうだよね」「あるある」のオンパレードです。

そういう本は、良くない本なのでしょうか?

「本質をついた本」というのは、
必然的に「当たり前のこと」が多くなるのです。

本質は、「基本」や「当たり前」の中に存在するからです。

「当たり前のことしか書かれていない」と批判する人は、
知識としては知っているけども、
行動としては実行していない。
口先だけで、批判しているだけです。

「当たり前のことを、当たり前に行動している人」は、
当たり前のことを読むと、
「やはり基本って重要だな」と、基本を再確認するはずですから。

羽生さんの本は、「やっぱりそうだよな」と
基本を再確認できるところが魅力なのです。

羽生さんの本には、科学根拠というものは書かれていません。
ただ、羽生さんの厳しい勝負の経験から得られた「気付き」です。

将棋界で初の7タイトル独占を達成。
25年以上にわたり、日本の将棋界の最前線で戦い続けてきた
圧倒的な経験値から導かれた「気付き」。

それは、ちょっとした科学論文に記載された「実験結果」よりも、
はるかにインパクトがあるのです。

いろいろな経験をしながら、自分で得られた「気付き」。
それが、羽生さんの「気付き」と一致するということは、
非常にうれしいことです。

「自分が進んでいる方向性が正しい」と
非常に勇気がもらえるのです。

それが、羽生さんの本の魅力であり、
この『捨てる力』もそうした一冊になっています。

ただ、この『捨てる力』という本は、
その内容が「捨てる力」に特化して書かれているわけではありません。

羽生さんの、「名言集」みたいなかたちで、
勝負にまつわる様々な発言を集めた本になっています。

ちなみに、先ほど、Kindleで何箇所「ハイライト」を引いたかを
数えてみたら、なんと56箇所。

ここまで「ハイライト」をひく本はそうそうありませんから、
これはホームラン本といっていいでしょう。

「名言集」のように、数ページで1項目構成になっているので、
読書が苦手な人でも読みやすく編集され、
羽生さんの本をはじめて読むという人には、
入門書としても最適だと思います。

「捨てる力」(羽生善治著、PHP研究所)
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