書評/映画評

サイドウェイズ 〜「寄り道」もいいじゃないか

昨日紹介した映画『ダウンサイズ』の監督アレクサンダー・ペインの
過去の監督作品『サイドウェイ』。

 

『サイドウェイ』は、私の大好きな映画であり、
ちょっと「疲れている人」や「落ち込んでいる人」が見るのに恰好な
チョー「癒し系」映画です。

 

以前、雑誌に書いた『サイドウェイ』の記事があったのを思い出しました。

 

ネット上にはアップしていない記事なので、
読んだ人はほとんどいないと思いますので、
せっかくの機会なので、ブログにて紹介したいと思います。

 

2004年のハリウッド映画『サイドウェイ』。
私の大好きな作品です。

どのくらい好きかというと、この映画に影響されて、
映画の舞台となったカリフォルニア州サンタバーバラに行き、
映画のロケ地やワイナリーを巡ったほど。

 

ですから本当ですと、アレクサンダー・ペイン監督の
元祖『サイドウェイ』を紹介すべきなのかもしれませんが、
敢えて小日向文世主演で2009年にリメイクされた
日本版『サイドウェイズ』を取り上げてみたいと思います。

 

■弱音を吐いてもいいじゃないか

 

キャリアもなく私生活もないダメ中年のシナリオライターの道雄(小日向)は、
親友・大介(生瀬勝久)の結婚式に出席するために渡米します。

独身最後の日々を謳歌したいと、
ワインの聖地ナパ・バレーに一週間のドライブ旅行に出かける二人。

そこで、二十年前の家庭教師の教え子であった麻有子(鈴木京香)
偶然再会します。

 

二人は互いに思いを寄せながらも、
なかなか距離は縮まりません…。

 

この映画の中で、私がとても好きなシーンがあります。

 

それは、麻有子がホロ酔いになって、
道雄に「心の弱み」を開示するシーンです。
このシーンには、涙が出ました。

 

麻有子は女性一人で、アメリカで生活し、
仕事においてもマネージャーとして活躍しています。
しかし、そこまで成功するのは、とてもたいへんだったはず。

 

日本人には、精神的につらくても、弱音なんか吐いてはいけない、
我慢しなきゃいけないと思う人が多いかもしれません。

 

でも、それだとストレスをためこんでしまいます。
ですから、時に弱音を吐いたり、自分の弱さを人に見せる、
ということは心のガス抜きという意味でも、非常に大切なのです。

 

もちろん、場所や相手は選ばないといけませんが、
気心の知れた人の前では、自分の心をオープンにする
(心理学的には自己開示といいますが)のはいいことなのです。

 

 

■お酒はコミュニケーションの潤滑油

 

麻有子が自己開示できたのは、道雄を信頼していたから。
そして、「お酒の力」もあったでしょう。

 

『サイドウェイズ』には、ワインが重要な小道具として登場します。
麻有子もワイン関係の仕事をしているという設定です。

 

四人の男女が、ブドウ畑を一望できる場所で、
ワインを飲みながらピクニックをするシーンは、実に楽しそうです。

 

ワインをはじめ、お酒というのは、気分をリラックスさせますし、
心を打ち明けやすくする。

 

コミュニケーションの潤滑油として、非常に大切なものだと思います。

 

一方、劇中で道雄が前妻の再婚を知り「やけ酒」を飲むシーンがありますが、
その姿は実に見苦しいものです。

 

現実から逃げるためのお酒は、余計にストレスの素になります。
飲み過ぎは禁物。楽しく飲んでこそ、お酒は「良薬」となります。

 

 

■「寄り道」もいいじゃないか

 

タイトル『サイドウェイズ』は、名詞”sideway”で「脇道、寄り道」の意味。
そして、形容詞”sideways” で「遠回しな、回避的な」という意味になり、
それはシャイな道雄の性格にも通じるかもしれません。

 

20代の若い人は、仕事や恋愛の成功を目標に、
がむしゃらに突っ走るわけですが、
30歳を過ぎて人生が、自分の思うようにならないことに気付きます。

 

あるいは、何度か大きな失敗をしたり、心に傷を負ったりします。

 

そうした「失敗」や「挫折」、つまり人生の「寄り道」は、
近視眼的に見るとマイナスの出来事にしか思えませんが、
長い目で見ると「必要な経験」であり「人生の肥やし」
としてみることも出来るでしょう。

 

若い人ほど失敗を怖れるあまり、重要な決断を躊躇したり、
ふられるのが怖くて、告白できなかったりということもあるかもしれません。

 

でも、失敗や失恋が、今の自分に役立っているんだ、
と気付くようになるのです。多少の失敗や挫折もいいじゃないか。
「寄り道」もいいじゃないか・・・と。

 

『サイドウェイズ』の登場人物たちは、
人生の紆余曲折を抱えています。

 

そうした主人公たちの「失敗」や「挫折」というのが、
誰にでもありそうな体験で、それが私たちの実際の人生経験にも
オーバーラップして、思わず「そうだよな」「そんなこともあるよね」
と言いたくなるのです。

 

シンディー・ローパーの「タイム・アフター・タイム」を主題歌にしたり、
音楽の選曲など、明らかにアラフォー世代を意識した作りになっていて、
「寄り道してこなかった大人たちへ」というキャッチコピーのとおり、
大人向けのコメディとして作られています。

 

こうした大人が見て楽しい大人向けの映画というのはなかなか少なく、
そんなこともあり、ハリウッド版『サイドウェイ』ではなく、
アラフォー世代の応援歌として作られている
この日本版『サイドウェイズ』を紹介させていただきました。

 

 

追伸

もちろんアレクサンダー・ペイン監督の元祖『サイドウェイ』も傑作。
あなたは、どちらを見ますか?

 

元祖『サイドウェイ』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=B0WAZxW0RXE

日本版『サイドウェイズ』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=O_go7aRI2s0

 


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