書評/映画評

『ザ・ウォーク』【映画批評】 アメリカ人は9・11の トラウマを超えた

ザ・ウォーク

『ザ・ウォーク』、公開初日に見ました。
IMAX、3Dで。

「おもしろい」というより、
「ハラハラする」というのが正しいでしょうか。

一言で言えば、綱渡り師の青年が、
ワールドトレーディングセンターにワイヤーを張って、
地上411メートルを命綱無しで、綱渡りをする話。

ザ・ウォーク

一体、どうやって、そんな荒唐無稽な計画を実現するんだ、
と思うわけですが、それが見事なサスペンス映画になっています。

これが実話なのですから、さらにビックリします。

なぜ、そんな命がけの冒険に挑むのか。

登山家や冒険家には、死ぬか生きるかのギリギリのラインで、
はじめて「生きている」という実感を感じる。

ボーダーライン・パーソナリティ障害に通じる
心理が見られる人が多いわけですが、
映画ではそこまで踏み込まれていません。

「狂気」の描写は、一応ありますが、
私から見とる、意外とノーマルです(笑)。
やっばり、「大きな夢」を実現するのには、
仲間の協力が必須。
そんなテーマに共感します。

下手すると逮捕されて刑務所行きになるかもしれない。
そんなリスクを追ってまで、「共犯者」となって、
主人公の夢を応援しする「仲間」たちが素敵です。

どんな「夢」も、必死になってやれば実現する!
そんな、ポジティブなメッセージを
私は強く受け取りました。
ご存知の通り、
2001年9月11日に起きた、
「アメリカ同時多発テロ事件」によって、
ワールドトレーディングセンター(WTC)は崩壊しました。

家族や友人を失った人たち、
そして一般のアメリカ人もこの事件によって
大きな心の傷を負いました。

『ザ・ウォーク』の登場は、
アメリカ人が9・11のトラウマを乗り越えた、
ことを意味するでしょう。

というのは、この作品には、最初から最後まで、
特に後半はほとんどWTCが
でずっぱりで、映し出されているからです。

Walk WTC

おそらく、5年前であれば、
「WTCを見ると亡くなった家族を思い出す」
とか「不謹慎である」といった批判も出たはずです。

しかし、今回の公開でそうした反応はなく、
米国では批評家の評判もよく、
純粋にすスリングな綱渡りシーンの緊迫感と
その映像を高く評価する批評がほとんどだったようです。

9・11を扱った映画は、既にたくさんあります。

事件当日の消防士の命がけの活躍を描いた
『ワールド・トレード・センター』(2006年)。

9・11で父親を亡くした少年の、心の回復を描いた
映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(2011年)
は、涙無くしては見られません。

他にも何本もありますが、
ほとんどがヒューマンドラマか、
そうでなければ、事件の真相に迫る
セミドキュメント的な真面目な作品です。

本作では、9・11の事件を扱っているわけでは
ありませんが、エンタメ作品でありながら、
WTCがこれだけ登場している作品は
いままでなかったはずです。

『ザ・ウォーク』の、アメリカ公開は2015年。
事件から14年が経過し、ようやく
“WTCの視覚的なトラウマからアメリカ人が回復した”
ということが、この映画の人々の反応を通して
見えてくるのです。

このことは、東日本大震災311を経験した
我々日本人に、一つのヒントを与えるでしょう。

東日本大震災が起きたのは、
2011年です。

すでに5年が経過しているわけですが、
私も何度か被災地を訪れ、
被災者の方とお話させていただいたていますが、
被災者の心が回復したというには、
またまだ早いかと思います。

日本でも、
東北の被災地を舞台に、娯楽映画が作られるようになれば、
真の意味で「トラウマを乗り越えた」と言えるのかもしれません。

そしてそれまでには、まだ10年くらいの時間が
必要かもしれない、ということ。

10年、15年という時間は長いものですが、
時間は確実に「トラウマ」を癒やしていきます。

それは純粋に「忘れる」「記憶が忘れる」ということなのかもしれませんが、
『覚えない記憶術』でも書きましたが、
「忘れる」というのは、人間に備わった重要な能力の一つでもあるのです。
『ザ・ウォーク』のラストシーン。
闇の中に黄金色に浮かび上がるWTC。
特に言葉によるメッセージは伝えていませんが、
いろいろと考えさせられるラストでした。

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