映画『MINAMATA―ミナマター』。
魂が揺さぶられました。
伝説的な報道写真家・ユージーン・スミス。
しかし、年老いた彼に、過去の勇姿はなく、
写真を撮りたいというモチべーションもなく、ただの大酒飲み。
アルコール依存症者として、堕落した生活を送っています。
そこに、日本のミナマタの公害の写真を撮って欲しい、
という依頼が。
最初は乗り気ではなかったものの、
水俣病の被害を直視し、そこで苦しむ人たちとの交流を通し、
「何とかしないと」という気持ちが芽生えていきます。
その彼のモチベーションは、
「報道写真家としての矜恃」というよりは、
1人の人間として真に「すべきこと」は何か?
ということ。
人間の根源的な部分が動かされることで、
スミスが変わっていくところが、本作の見所でしょう。
「写真は撮るものの魂を奪う」
というスミスのセリフが、心に響きます。
「写真を撮られる魂が奪われる」という話はありますが、
写真を撮る者の魂を奪う。
つまり、写真を撮ることは、
大きなストレスを背負い、精神的に疲弊していく。
実際、スミスは戦場での生死に関わる体験が原因で、
PTSD(心的外傷後ストレス障害)をわずらい、
フラッシュバックや睡眠障害に悩まされていました。
私も作家として思うのは、
「本を書くと魂が奪われる」ということ。
本を書くことは、命を削ることです。
自分の全てをぶつけて、出し尽くして、1冊の本を書いていく。
本を書くのも、写真を撮るのも、
一つの「作品」を作るということで、共通しています。
魂を削り、命を削って作品を生み出す。
産みの苦しみを背負う、という点で同じなのです。
スミスは、たった1枚の写真を撮るのに、
膨大な時間と手間暇を費やします。
公害で悩む人たちと、心の交流がなければ、
写真を撮らせてもらうことすら、
かなわないわけですから。
最後の1枚の写真を撮るシーン。
そこには、セリフも何もありませんが、
圧倒的に「映像で伝える力」があります。
水俣病の怖ろしさを伝えている。
だけではなく、病気を持った娘を、
たっぷりの愛情で愛する母親の姿が感動的です。
涙がボロボロとこぼれます。
本作では、「自分の仕事を通して、いかに社会に役立つのか」
というテーマが込められています。
主人公のスミスの行動がそうですが、スミスを支える盟友、
「ライフ」誌の編集長にも共感します。
テレビにおされて廃刊間近の雑誌。
「紙媒体」でしかできないことは何か?
スミスの写真で、公害の真実を世間に問いたい!
と、スミスの日本行きに最初は否定的だった彼も、
最後は最大の応援者となります。
そして、本作の主演であり、
プロデューサーをつとめたジョニー・デップ。
言うまでもなくハリウッドで大成功をした俳優でありますが、
大手映画会社の作品ではなく、
自分の撮りたい作品を作り、そこに出演していく。
本作がそうですね。
単なるエンタメではなく、
「世の中に問うべきもの」を作りたいという想いは、
完全にユージーン・スミスの生き様にオーバーラップして、
私たちの胸に迫ってきます。
公害病の怖ろしさ。
それを隠蔽する企業と国家。
公害病として認知されるまで15年以上もかかっている。
そして、今現在も、世界中で公害や有害物質の汚染は進んでいる、
という告発。
紙媒体がテレビに駆逐される。報道の世代交代。
あるいは、モノクロ写真からカラー写真への世代交代。
それは、テレビからインターネットへの世代交代、
アナログからデジタルへの世代交代の話として、
そのまま「現代」に置き換えられます。
いろいろと考えさせるテーマを持った問題作。
2021年、最も魂が揺さぶられた作品の1本
と言えるでしょう。
映画『MINAMATA―ミナマター』樺沢の評価は・・・ ★★★★☆ (4・7)
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