書評/映画評

謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス 〜 新たなる美術鑑賞のスタイル

私が最近、注目している画家がいます。
それが、ヒエロニムス・ボスです。

私の最も好きな画家は、ブリューゲルですが、
『バベルの塔展』では、
ブリューゲルに影響を与えた画家、
ということでボスの2作品
「放浪者(行商人)」「聖クリストフォロス」
が公開され、それを生で見て衝撃を受けました。

さらに、今年、スペインのブラド美術館で
ボスの「快楽の園」を見て、その魅力に取り憑かれたのです。

ブラド美術館で一番良かったのが、
この「快楽の園」でした!

「快楽の園」どんな絵画か、みたい人はコチラから
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%AB%E6%A5%BD%E3%81%AE%E5%9C%92#/media/File:El_jard%C3%ADn_de_las_Delicias,_de_El_Bosco.jpg

一年の間にボスの作品をまとめて目にすることができた!
というのは、ただの偶然とは思えません。

一昨日、
ボスに関するドキュメンタリー映画が公開されていると知り、
いてもたってもいられない衝動にかられ、
昨日、見に行ってきました。

『謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス』は、
彼の代表作である「快楽の園」という一枚の絵画について、
90分の間、専門家や関係者が語り尽くす、
というそれだけの作品です。

一枚の絵画をネタに、90分のドキュメンタリーって無理だろう
と、「ひょっとして退屈なドキュメンタリーでは」
という不安もありました。

しかし、実際の作品は、
「極上の知的ドキュメンタリー」として仕上がっていました。

あるいは、
「新しい次元の絵画鑑賞スタイルの提案」
とでもいいましょうか。

美術館に行って、一枚の絵画の前で3分の音声ガイドを聞いて
「わかったつもり」になっていた自分が、
穴の中に入りたいほど恥ずかしくなりました。

1枚の絵画に盛り込まれた膨大な情報量。
そして、画家の情熱。

それを、美術史家、キュレレーター、音楽家、指揮者、作家、漫画家、
絵画修復者、神経科学者、哲学者など、20名を越える人物が、
それぞれの立場から、語っていくのです。

作品に対する理解が深まるだけでなく、
「絵画とはここまで深く楽しむべきだ!」という
「絵画鑑賞ノウハウ」的なおもしろさもあります。

いうならば、映画鑑賞ガイド。

本作品は、これから登場するVR(仮想現実)の
映像体験のハシリと理解することもできます。

美術館、その場にいて、その作品を見ているようなリアリティ。

さらに、美術館のキュレーターや世界的な美術史家が、
その場での作品について解説してくれるという。

それは、極めて贅沢な時間といえるでしょう。
あるいはこの映画は、
ほとんど資料が残っていない謎の画家、ボスの人間像を
純粋に「作品」だけからあぶり出そうという、
ミステリーでもあります。

X線を使って「下絵」を浮かび上がらせる。
「下絵」と「現行の作品」との違いから、
画家の作者の意図、思いを探っていく、という趣向もおもしろい。

天地創造をした「神」の目線が、
「下絵」では、アダムとイブのアダムの方を向いているのが、
「現行の作品」では、観客の方(絵画を見る)を向いているように
修正されている。

その理由を解説する部分に、ワクワクしました。

また、超精密に書かれた「快楽の園」は、
現物を見てもルーペでもないとわからないようなミリ単位の筆使いも、
映画という特大クローズアップ(多分1,000倍以上)で見ると、
また全く違った世界が見えてくるのです。

この映画の企画考えた人、本当に凄い!!

ということで、ヒエロニムス・ボスが好きな人には
たまらない映画なのであります。

ヒエロニムス・ボスって誰? という人が見て、
おもしろいかどうかはわかりませんが(笑)。

ただ、美術ファンであれば、
この「一本絵画について徹底的に深める」という
作品の趣旨に強く共感するはずです。

最近、美術館によくいきますが、
これから美術館に行くのが、さらに楽しみになりました。

追伸

『謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス』公式サイト
https://bosch-movie.com/

上映館は、イメージフォーラム・シアター(東京・渋谷)のみ。
終映日は未定なので、お早めに。