書評/映画評

アド・アストラ ~超ディープな心理描写を堪能

映画『アド・アストラ』を見ました。
 
世間的には酷評されているようですが、私的には非常に良かった!! 
娯楽要素ゼロの心理描写のみで構成されている。
特に盛り上がるわけでもなく、重苦しい雰囲気の中、
淡々とドラマが進んで行きます。
 
『惑星ソラリス』か『2001年宇宙の旅』のような、
古典的なSF映画を見ているような郷愁にとらわれます。

宇宙船や宇宙服のデザインがありえないほどレトロ。
そして、宇宙船の操作も、爆弾の起爆も全部マニュアル。
昔のSF映画へのリスペクトなのでしょう。

 
行方不明になった父親を探しに海王星まで行く物語。
ここまで壮大な「父親探し」は、映画史上最大級でしょう。

【以下、ネタバレあり】
(ラストの結末についても書かれています)









父親との対立、対峙があるのかというと、案の定ないのです(笑)。
しかしこれは、完全に想定の範囲内。
「父親殺し」というのは、当事者の内面的なイベントですから、
実際のところ父親に会わなくても、
父親と対峙しなくとも可能であることは、
拙著『父親はどこへ消えたか 映画で語る現代心理分析』でも書きました。

例えば、『フィールド・オブ・ドリームス』では、
主人公のケビン・コスナーは、亡き父親と「夢」(?)の中でキャッチボールすることで、
父親との和解を果たします。
 
おそらくほとんどの人は、父親と対決らしい対決がないことに拍子抜けたことでしょう。
これは確信犯です。わざとそのように描写している。
つまり、「殺すべき父親」は、そこにはいなかった・・・ということです。
 
主人公のロイ(ブラピ)には、父親と会う前から、
大きな心理的変化が現れます。

今まで、心の奥底に父親への思いを封じ込めていたロイ。
父親なんか関係ねー、的なクールなりアクションを取り続けてきたロイですが、
火星から海王星の父に向けてメッセージを送るシーンで、
初めて自己開示をして、父親に対する感情をあらわにします。
ここが一つの見どころ。
彼の、パンドラの箱が開いた。

重要なのは、「ロイが父親と会う」かどうかではなく、
今まで避けてきた問題に「ロイが直面せざるをえなくなった」ということです。

海王星の基地での、父親との再開。
そには、「懐かしさ」も「愛情」も、さらには憎しみすらもわかない。

完全に狂気にとりつかれた父親。
いや、「ただの危ないお爺さん」と言った方がいい。

そこには、話し合いの余地すらありませんでした。

ロイには、自分や母親を置き去りした父親に
怒りでぶつけたい気持ちもあったでしょうが、
それはどうみても無理っぽい。

そこには、自分が闘い、打ちのめすべき存在としての「父性」は存在しなかった。
わざわざ、命がけで海王星まで来て。
途方もない「徒労」。
 
父親は、宇宙の果てまで行って知的生命体を見つけられなかったが、
ロイは宇宙の果てまで行って、「父親」(自分が乗り越えるべき父性的存在」を
見つけられなかったということ。
 
しかし、地球戻ったロイは、
孤独で共感性がなかった昔のロイとは大きく変わっています。
「愛」の重要性気付き、別れた妻との修復を試みよう
というポジティブなラストシーン。
 
ロイの壮大な旅は、
「父親探しの旅」ではなく「自分探しの旅」であったのです。

彼は、サージを食い止めた、地球を救った英雄としてまつり上げられるでしょう。
つまり、人々の憧れ、尊敬の対象となる。
つまり、ロイが自分の力で「父性」的存在になった、というラストです。
 
この映画のテーマをどう理解するかは、いろいろあるでしょうが、
私は「今の時代は、もはや父性は存在しない。
父親探しても存在しないので、自らと向き合って、自己成長していくかない・・・」という、「父親殺し」を否定した映画としか思えないのですが、どうでしょう?

 
「MIB」で、エイリアンを退治するエージェントを演じたトミー・リー・ジョーンズが、「知的生命体を探すののに命をかける男」を演じ、
『アルマゲドン』で隕石爆破に向かった父親と恋人の帰りを待つヒロインを演じた、
リブ・タイラーがも本作でも似た役柄を演じているのも興味深いです。
 
ということで、非常に深い映画を見られて、
大大大満足であります。

『アド・アストラ』樺沢の評価は・・・・・・   ★★★★ (4・3)
 
追伸
まあ、娯楽要素がないので、「つまらない」と思う人は多いでしょうから、
強くはお勧めしませんが。

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