(以下、映画『メッセージ』のストーリーの一部が書かれていますが、
映画のおもしろさを損ねるものではございません。
あらすじすら知りたくない方は、ご注意ください。)
映画『メッセージ』が、凄い!!
今年度、ナンバーワン!!
という話は、何度かしています。
では、その、どこが凄いのか。
この映画の中で、
私の一番好きなシーンを紹介したいと思います。
世界12ヶ所に突然現れたUFO。
何を目的にエイリアンは現れたのか。
エイリアンと接近遭遇して、
エイリアンと何とか会話して、
「エイリアンが地球に来た目的は何か?」を解き明かすために、
言語学者のルイーズ博士(エイミー・アダムス)が招集されます。
緊迫した環境の中、エイリアンと何度か会話を試みるものの、
ほとんど進捗がなく、ルイーズ博士は苛立ちをつのらせます。
その時、ルイーズ博士は、突然、防護服を脱ぎ、
宇宙飛行士のようなフルフェイスのヘルメットも脱いで、
素顔をさらけだします。
そして、エイリアンの方に歩み寄るのです。
おーーーーー、すげーーー!!
このシーンにハッとして、グッと来ました。
普通の人は、このシーンを見ても、
それほど感動しないのでしょう。
意味がわからない人もいるかもしれない。
コミュニケーションの本質がわかっていれば、
彼女の行動の意味は明快です。
実は、このシーンの直前のシーンで私は思ったのです。
こんな防護服を来て、コチラの顔や表情も全く相手に見えない状態。
そして、言葉もマイクを通しての会話。
そんな状態では、コミュニケーションは不可能だろう!!
と。
そんな矢先に、ルイーズは、防護服を脱ぎ、
素顔をあらわにしたのです。
彼女も同じことを思っていたのでしょう。
なぜ、ルイーズは、防護服を脱いたのか?
ノンバーバール・コミュニケーション。
非言語コミュニケーションをとるためです。
言葉で何を発するかという以前に、
表情や雰囲気、言葉を超えた部分でのコミュニケーション。
それが、ノンバーバール・コミュニケーションです。
人間のコミュニケーションというのは、
「言葉」によってなされているよう思いますが、
実はノンバーバールの方が重要なのです。
それを百も承知の言語学者のルイーズは、
素顔でエイリアンと対峙するのです。
エイリアンは、未知のウイルスを持っているかもしれません。
UFOの内部ですから、放射性物質が出て来るかもしれない。
つまり、「防護服を脱ぐ」というのは、命の危険をともなう。
それだけで死ぬかもしれない、命がけの行為なのです。
そう、ルイーズは、エイリアンと
ノンバーバール・コミュニケーションをとるために、
自らの命を賭けたのです。
そこまでするのか・・・。
ドッと涙が湧き上がります。
なんという、プロフェッショナル根性。
でも、多分、私も同じ立場であるならば、
間違いなく同じことをするでしょう。
先日、こんな出来事がありました。
ある精神科医の診察場面を拝見しました。
女医さんでしたが、
彼女はマスクをつけたままカウンセリングをしていたのです。
えっ? まじ?
そんなの、ありなんだ。
内科や外科の先生ならわかりますが、
精神科医がカウンセリングの最中にマスクをしているというのは、
私としては、あり得ない行為なのです。
なぜなら、顔が見えないから。
顔が見えないと、こちらの気持ちが伝わらないから。
顔が見えないと、患者さんが不安になるから。
顔が見えないと、ノンバーバール・コミュニケーションが使えないから。
つまり、こちらの顔が見えないのに、
カウンセリングなんか、できっこないのです。
精神科医に限らず、
内科や外科のドクターでも、処置のときはいいのですが、
患者さんや家族に病状を説明するときは、
マスクはとるべきだと思います。
伝えるべきことを伝えるためには、
言葉だけの「バーバール・コミュニケーション」だけでは不十分で、
「ノンバーバール・コミュニケーション」を使うべきです。
病気を治すだけではなく、
患者さんの不安をとりのぞくのが医者の仕事。
ですから、
そのためには、マスクをとって素顔で話しかけた方が
いいに決まっているのです。
マスクをしないと病気が移るかもしれない。
その通りです。
風邪が流行しているシーズンなどは、
患者さんの2、3人に1人くらいが風邪を引いている。
そんな状態で、何十人もの外来診察をすれば、
風邪をうつされることもあります。
しかし、それでも私はマスクをしません。
だって、
「ノンバーバール・コミュニケーション」で癒やすのが、
精神科医の仕事だから。
病気をうつされようが、コチラは命をはってでも、
素顔をさらして、治療する。
それが、精神科医の矜恃です。
(「矜恃」というのは、
妥協できない「プライド」という意味です。)
実際、
ノンバーバール・コミュニケーションの威力は絶大です。
カウンセリングで「何を言うか?」「どんな言葉を発するのか?」
よりも「どんな表情で接するのか?」の方が、何倍も大切なのです。
だから、カウンセリングをするのなら、
そしてコミュニケーションをとるのなら、
顔と顔を突き合わせた、
フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが必須なのです。
防護服を脱いだルイーズ博士を見た、
エイリアンはどう思ったでしょう?
「敵意」や「攻撃」や「構え」や「防御」すら放棄している。
中立で友好的な雰囲気が、伝わったに違いないのです。
実際、
フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションをするようになり
そのセッションから、エイリアンとの会話が、
急速に進んでいくのです。
軍の偉い人は、エイリアンの言葉だけ解読して、
「エイリアンが地球に来た目的」を明らかにすればそれでいい、
と言います、
しかし、心を通じ合わせないで、真の対話は不可能なのです。
ルイーズ博士は、ガチです。
自分の命を賭けて、エイリアンと心を通じ合わせていくのです。
この言語のプロ。
いや、言語は所詮「道具」。
コミュニケーションの道具に過ぎない。
「言語」を超えた、「想い」の部分で、コミュニケーションをとっていく。
コミュニケーションは「想い」なのだと!!
そんなセリフはどこにもないけども、
彼女の行動と意気込みが、それを全て証明しています。
本気で関われば、エイリアンとだって、心を通じ合わせられる!!
精神科医風に言えば
「本気で関われば、どんな患者さんとだって、心を通じ合わせられる。」
ということです。
これが、コミュニケーションの
プロのプライドであり、意地というもの。
映画自体は、ものすごく静かで、淡々としています。
『インディペンデンス・デイ』のようなドンパチシーンはありません。
しかし、
彼女の「コミュニケーション」にかける意気込みは、
凄まじいものがあるのです。
そこに猛烈に共感します。
「本気で関われば、どんな人とでも、必ず通じる」
この映画のテーマに強烈に共感するとともに、
そのプロフェッショナル魂を最後まで貫き通す
ルイーズ博士の姿勢に号泣しました。
そして、
「コミュニケーションとは何か?」
ということを、改めて教えられるのです。
魂を揺さぶる映画、登場。
『メッセージ』。
凄いです。
ということで、樺沢、今年一番のおすすめ映画。
是非、見てほしいと思います。
映画『メッセージ』予告編はコチラから