【質問】
樺沢さんは、いつから「父性」に関心を持ち、調べはじめたのですか?
【回答】
非常に重要な問題なので、詳しくお伝えしましょう。
今から約30年ほど前の話です。
私は、精神科医となり、初めての入院患者さんを担当しました。
拒食症、A君(12歳)。
全く食事ができず、体重はわずかに30数キロ。
点滴でかろうじて生きている感じ。
小児科入院中にバルコニーから飛び降りようとしている
ところを発見され、精神科へと転科になったのです。
ほとんど言葉も話さないA君。
最初は全くコミュニケーションがとれず、
カウンセリングにもならない状態でした。
治療の手がかりがつかめず途方にくれていたところ、食堂で絵を描い
ているのを何度か見かけました。
絵が好きだったとわかり、
絵画療法を用いて交流を深めることにしました。
彼が描く絵のテーマは決まっています。
トラックです。
彼の趣味は、トラックの写真を撮りに行くこと。
派手な電飾ピカピカの、いわゆるトラック野郎の大型トラックです。
菅原文太が出演している映画『トラック野郎』シリーズも大好きだと語り、
私も映画好きだったので、映画という共通の話題で盛り上がりました。
体重わずか30数キロの少年は、
「将来、トラック運転手になるのが夢」と語りました。
その外見からは全く想像もできない夢です。
母親は非常に熱心で、よく病院に足を運んでは、
A君と一緒の時間を過ごしていました。
しかし治療1カ月がたち、あることに気がつきました。
お父さんが一度も面会に来ていないのです。
母親に聞くと、仕事が忙しくて、
なかなか病院には来られないとのこと。
そうは言っても、入院して1カ月もたつのに、
一度も面会に来ないとは異常な話です。
そこで「お父さんに一度来てもらえませんか」とお願いし、
病院に来てもらいました。
彼のお父さんは、
まじめなサラリーマンタイプ。人がよさそうに見えましたが、
言葉も弱々しく、非常に印象の薄い人です。
仕事が忙しく、残業や休日出勤も普通で、
育児は完全に母親任せでした。
父性不在の家庭。
そして、明らかな父親の愛情不足。
その時、少年が「トラック」に憧れる理由がわかりました。
「男性的な力強さ」を象徴するのが「トラック」です。
当時、「トラック」といえば、
トラック野郎・菅原文太のイメージ。
ごつい男が乗る、「男らしい」イメージの象徴だったのです。
A君は、「男性の力強さ」、
すなわち「父親の力強さ」を求めていました。
彼の「トラック運転手になりたいという夢」は、
「自分が力強くなりたい」という願望であるとともに、
「父親の愛がもっと欲しい」というサインでもあったのです。
父親には、仕事の忙しい中、
できるだけ面会に来てくれるようにお願いしました。
父子で過ごす時間を増やすのが、最大の治療になると考えたからです。
実際、父親は忙しいなか時間をみては
面会に来てくれるようになりました。
その面会回数と比例するかのように、
A君の摂食障害は改善し、徐々に食事もできるようになったのです。
父親が面会に来るようになってから
2カ月後に退院することができました。
私は、A君を通して非常に重要なことを学びました。
「父性愛の不足」が命にかかわるような
重要なメンタル疾患を引き起こす原因となること。
逆に、ごく普通の家族団欒、家族がそろって
楽しく会話するだけで、癒しのパワーが発揮されるということを。
私はこの時「父性」の重要性について、
生まれて初めて意識しました。「父性」の導きがないと人は生きていけない、
それほど大切なものなのだと認識したのです。
文献で一通り勉強しましたが、
当時「父性」について日本語で書かれた本は、
数えるほどしかありませんでした。
A君が私の入院患者第1号であったことは、
今考えると、非常に運が良かったと思います。
私はその後、日々の診察で「父親」を意識するようになりました。
父親との関係性はどうなのか?
父性不在に陥っていないのか?
そして、大学生の頃は年間150本から200本を映画館で見る
映画ファンであった私は、
医者になってからは年間100本程度に減ってしまいましたが、
映画を見る時も、常に「父性」というものを意識して見るように
なっていたのです。
樺沢にとって、最初の入院患者さんと「父性」が、
密接に関わっていたという。
ということで、かれこれ「30年間」、
「父性」を調べ続けている、というわけです。
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わたしの両親の場合、子育てに関しては、「母性」が暴走すると「父性」がブレーキをかける、という感じでした。「母性」は親身に、「父性」は客観的に、わたしに接してくれたと思います。
車輪の大きさが違うと、あっちこっちに曲がって行ってしまうので、「父性・母性」もバランスが大事なのかな〜、と思いました。