書評/映画評

羊の木(映画)を見て 〜 障害者の社会復帰もたいへんです

映画『羊の木』を鑑賞しました。

6人の転入者、全員殺人犯。という設定は秀逸です。

前半の、「この先、どう展開するんだろう?」という
ピリピリとした展開もいい。

錦戸亮、松田龍平の演技陣も頑張っています。

ただ、もうちょっとラストに意外性と感動が欲しかった。

しかしながら、
この映画が持つ「テーマ性」には、
非常に考えられるものがあります。

過疎に悩む田舎町が、過疎対策として、
仮釈放中の人たちを住人として受け入れ、
住宅や仕事も町が斡旋します。

6人の転入者(元殺人犯)。
しかし、その素性は、周囲の人たちには秘密にしていたため、
いろいろな騒動が発生するのです。

元受刑者が、出所してからの「社会復帰の難しさ」が、
この映画の社会的テーマとなっている点は、興味深いです。

元受刑者にとって、出所したとしても、
たいへんなのは、「住む場所」と「仕事」探しです。

前科一犯の「元殺人犯」を喜んで雇う職場は少ないでしょう。

この問題は、
そのまま「精神障害者」にも当てはまります。

長期間精神科に入院していた患者を、
喜んで住まわせてくれる住宅があるでしょうか?
あるいは、喜んで雇ってくれる職場があるでしょうか?

これが、非常に大変な問題なのです。

丁度、一昨日、NHKEテレで
ETV特集「長すぎた入院 精神医療・知られざる実態」
が放送されました。

私は、番組は見ていませんが、

#世界の病床のおよそ2割が集中する、精神科病院大国、日本
#5年以上入院している患者は7万人 なぜ長期入院になったのか?

といった、日本の精神病院の長期入院の問題が取り上げられたようです。


精神病院の長期入院の原因は、

精神科医が金ずるを失うから退院させないせいだ!
という批判がありますが、
その批判には反論があります。


退院させても、受け皿がないのです。

つまり、住む場所も、仕事もない。
家族も、身元引受人もいない人を退院させることは、
無理なのです。
以前、統合失調症で長期入院していた患者さんAさん。
薬もすべて調整しなおして、デイケア活動にも参加させて、
別人のように状態がよくなり、
「退院させよう」という話になりましたが、
家族がいないAさん(40代後半の女性)は、単身生活をするしかない。

しかし、彼女を住まわせてくれる住宅が見つからないのです。

ケースワーカーさんが、いろいろと住宅を当たってくれますが、
「精神科に長期入院していた」事実を隠すわけにもいかず、
それを話すと「うちではちょっと」と断られます。

Aさんは、
障害者年金と生活保護での生活ですから、
その予算で借りられるところといえば、
超安価なアパートしかありません。

ケースワーカーさんが、
ものすごく苦労して探してくれて、
ようやく献身的で、物分りのよい大家さんがやっている、
アパートに入居することができたのです。

食事は、宅配サービスを使い、
ケースワーカーさんも定期的に訪問していました。

はたして、Aさんは、一人暮らしをすることができたのか?

退院ししてから、一ヶ月後、看護師長さんが、
自らAさん宅を訪問したところ、家もキレイにそうじされていて、
普通に、何の支障もなく、「一人暮らし」ができていた!
と、驚いていました。

その後、再入院したという話は、聞いていません。

私が赴任したときのAさんは、
タバコと食事以外は、一日中、ベッドで横になっている。
活動性、自発性が著しく低下した状態。

看護師たちは、絶対に退院は無理。
これからも何年も入院しているに違いない
・・・と噂していたほどです。

そんなAさんも、薬の調整と、
積極的なかかわりによって、別人のようによくなり、
退院できたのです。

このAさんのケースは、私の記憶に色濃く残っています。

当時は、私も若くて、
テレビに出てくるような「熱血医師」だったので、
「なんとかAさんを退院させよう」ということで、
いろいろ頑張りましたが、
長期入院の患者さん一人を退院させることが、
こんなにもたいへんなことなのか、と勉強しました。

家族が献身的で、帰るところも、
生活の面倒を見てくれる場合は簡単です。
というか、そういう人は、最初から長期入院にはならないのです。

しかし、家族がいるから大丈夫、とも言えません。

重度の精神病者の家族は、
家で面倒をみるのはものすごくたいへんですから、
退院して欲しくないと思っているのです。

とにかく、退院に反対します、
退院を口に出すと、病院にも来なくなります。

以前あった話ですが、
病状的には全く退院可能な患者さん。

退院の話を進めたところ、
家族が長期に入院させてくれる精神病院を探してきて、
退院と同時にそらに入院させた、ということもありました。

ということで、

精神科医がどんなに頑張って退院させようとしても、
社会としての受け皿の問題。
あるいは、家族の受け入れの問題などで、
退院させようにも退院させられない、
というケースが多い、ということです。

あるいは最近は、精神科の入院患者の約半数は、
認知症の老人で占められています。

「来週、退院となりますので、あとは家で介護してください」
と言われたら、あなたは自分の親を引き取りますか?

まあほとんど無理で、病院を退院しても、
どこかの施設に入ることになります。

そんな、「長期入院の精神障害者の退院後の社会生活」の問題と、
映画『羊の木』で描かれた、
「元受刑囚の釈放後の社会生活」の問題とが、
非常にオーバーラップするなあ、と考えさせられました。

『羊の木』公式ページ
https://hitsujinoki-movie.com/



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