書評/映画評

ゴスペルを聞いて思い出した  ~ジェニファー・ハドソンに会いに行った!

5月3日は、珍しくコンサートに行きました。

 

毎年、ゴールデンウィークに開催される
クラシック音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ」
そこで、ブルース&ゴスペルの会があったで聞いてきました。

 

クラシック音楽祭なのに、ゴスペルというのも珍しい。

 

とてもよかった!

ゴスペル
 

これを聞きながら私の脳裏で、ある「記憶」が強烈に蘇ったのです。

 

アメリカのニューヨークやシカゴで、本場のゴスペルを聞いた
経験が何度かありますが、
私にとってゴスペルを聞くと必ず思い出すのが、
ジェニファー・ハドソンに会いに行った話、です。

 

それは、今から10年以上前。
忘れもしない、シカゴ留学中の2006年2月。

 

パソコン内を検索してみると、当時発行したメルマガの記事が
しっかりと残っておりました。

 

ということで、12年前のメルマガ記事から
「ジェニファー・ハドソンに会いに行った!」
を再録させていただきます。

 

■ ジェニファー・ハドソンに会いに行った!

 

樺沢の有名映画人に会いに行くシリーズ。

 

第1弾は、カンダムの富野監督。
第2弾は、ウディ・アレン。

 

いつも紆余曲折があって一筋縄ではいきません。

 

そして、今回、あの有名女優に会いに行きました。

 

ジェニファー・ハドソン

 

えっ、ご存じない?

 

まあ、日本では「ドリームガールズ」が、まだ公開前なので
しょうがありませんが、ジェニファー・ハドソンは、「ドリームガールズ」
の熱演で、ゴールデン・グローブ賞をはじめとして主要な映画賞で
助演女優賞を総なめして、25日のアカデミー賞でも助演女優賞の
最有力候補とみられています。


 

今、アメリカで最も注目を集めている女優であり、
シンガーであると言えます。

 

さて、先週の土曜日、いつものように映画館に向かい、
映画「テラビシアにかける橋」のチケットを買いました。

 

チケット売り場のすぐ横に、
ポストカード・サイズのチラシのようなものが
置かれています。

 

一枚とってみてみると、
そこにはジェニファー・ハドソンの写真が・・・。

 

そして、「2月19日19時、シカゴ プログレッシブ・バプティスト・チャーチ」
と書かれているではないですか。

 

これは、ジェニファー・ハドソンが
シカゴで、コンサートをするという
案内のチラシではないですか?

 

アカデミー賞ノミネート女優を、この目で見られるチャンスなど、
日本にいてはまずないでしょう。

 

アメリカにいても滅多にないことです。

 

こんなチャンスを逃すことはできません。

 

帰ってネットで調べてみると、
なんと「無料」と書いてあります。

 

「無料」で、ジェニファー・ハドソンの生歌が聞ける。
そんなことがありえるのでしょうか!!

 

とにかく、楽しみです。

 

絶対に行くしかない!!
という感じです。

 

ただ、気になることが一点だけありました。

 

この会場となる教会が、
シカゴのサウス・サイドにあるということです。

 

サウス・サイドというのは、シカゴでは黒人の居住区として知られます。
ニューヨークで言えば、ハーレムのような地区です。

 

したがって、白人や日本人は、
「絶対に行ってはいけない」と言われています。

 

おそらく、当日も白人の客は、まず来ていないだろうと予想されます。
そんなところに、日本人がフラフラと出かけて行って良いのか?
という不安です。

 

しかしながら、場所を詳しく調べてみると、
会場の教会は、シカゴ・ホワイトソックスのホームスタジアムの
セルラー・フィールドに隣接していることがわかりました。

 

まあ、この辺はサウス・サイドの入り口となり、黒人以外が
不用意に近づくべき場所ではありませんが、
「まあ、大丈夫だろう」と判断します。

 

地下鉄の駅から歩いて2ブロックなので、
タクシーで行く必要もなかろう・・・と。

 

さて、楽しみにしていた当日が来ました。

 

19時開演。無料のコンサートということで、
相当の客が集まるだろうことは、容易に想像できます。

 

1時間前には会場につきたいと思っていました。

 

そして、17時に仕事を終了して、
ダッシュで会場近くの地下鉄駅に向かいます。

 

駅には、18時前に着くことが出来ました。

 

しかし、私の家内が現われません。
いくら待っても一向に現われない。

 

結局、家内が20分も遅刻したせいで、
会場に着いたのは、18時20分になってしまいました。

 

案の定、会場前には300人くらいが行列しています。

 

当然でしょう。
無料ですから。

 

はっきり行って、間に合うのか、間に合わないのか
だけが気になっていましたので、
危険な地区であるとか、そういうことはスッカリ忘れていました。

 

というか、教会の前には、パトカーも待機していましたから、
その辺は安心したのです。

 

それよりも、入場できるのか?

 

教会はかなり大きいようですが、
これだけの人を収容できるのか?

 

行列は、全然、前に進みません。

 

それでも、少しずつ、少しずつ、
人が会場の教会の中に飲み込まれます。

 

果たして入場できるのか?
やっぱり、心配です。

 

無料コンサートですから、前売り券も、整理券もありません。
満員になったら終わりです。

 

18時50分。開演の10分前となりましたが、
まだ我々の前には50人くらいが並んでいます。

 

もうダメだ・・・。

 

行列の進みが、完全にストップしました。

 

と思った瞬間、
中からガタイのいい男(身長2メートル以上。当然、黒人男性)
が現われて言いました。

 

「教会の520席は完全に満席になりました。
これ以上は、入場できませんのでお引取りください・・・」

 

ガーーーーーーーーン!!!!

 

ここまで来て、
ジェニファー・ハドソンの生歌が聞けない・・・。

 

誰かが遅刻したせいで・・・。

 

おかげで、かなり激しい夫婦喧嘩が勃発!!! (笑)

 

この時点で、まだ200人くらいは並んでいたように思います。

 

みんな、あきらめきれない様子で、しばらく並んでいました。

 

開演時間の19時になったとき、また例のガタイのいい男が出てきて、
「教会の520席は完全に満席になりました。これ以上は、入場できません
のでお引取りください・・・」
と全く同じことを事務的に繰り返します。

 

さらに、「絶対に入場することはできません」と、
厳しく釘を刺します。

 

やっばり。ダメか・・・。

 

ガッカリ。

 

この時点で、並んでいたほとんどの人たちは、帰りました。

 

しかし、列の先頭にいた20名ほどの人たちが、
しぶとく居座っています。

 

特にピンクの服を着たおばさん(もちろん黒人)が、
係員に何とか入れてくれるよう直談判をはじめましたが、
無視されたもよう。

 

やはり、ダメか・・・。

 

しかし、ここは教会です。

 

コンサートといっても、ゴスペルによる礼拝です。

 

ひょっとして、神のご加護が・・・。

 

そして、奇跡が起こるのではないか・・・
という甘い期待があります。

 

最後の可能性を期待していた20人ほどの人たちの
表情も暗くなります。

 

19時10分。また、例のガタイのいい男が出てきました。

 

そして、言いました・・・。








「早く、ここから入りなさい」

 

最初、耳を疑いました。

 

しかし、閉ざされていた教会の扉は開け放たれ、最後まで待ちつづけた
20人ほどの人たちだけが、入場を許されました。

 

ラッキーです。

 

神のご加護というべきでしょうか。
超ガタイのいいその男の人が、天使のように見えました。

 

さて、二階に案内されます。
普通のゴスペル教会ですが、観客の99%が黒人なので圧倒されます。

 

白人の観客も何人かはいました。
5~6人です。
500人以上の会場で。

 

席は満席で、立つ場所もありません。

 

しょうがないので、一番前(ステージの真横)までいくと、
多少のスペースがありました。
ステージから距離的には近いので、結構な特等席です。

 

まずは、クワイアー(聖歌隊)の合唱です。
高校生の聖歌隊もありました。

 

今回の会のタイトルは
「ジェニファー・ハドソンと仲間たち(friends)」と
いうものでした。

 

ジェニファー・ハドソンの祖母がゴスペル・シンガーで、
ジェニファー・ハドソンも祖母にあこがれ、
少女時代から聖歌隊に所属して、シンガーとしての実力を
養っていったというわけ。

 

ハドソンが、アカデミー賞の後に答えたインタビューで、
次のように話していました。

 

「私の祖母は偉大なシンガーだったわ。
でもチャンスに恵まれなかった。
私には、幸運にもチャンスが訪れたわ・・・」

 

偉大なシンガーでありながら、チャンスに恵まれず、
有名になることはなかった彼女の祖母。

 

その祖母の夢を背負い、ハドソンがようやくチャンスをつかんだという。
さりげない言葉の中に、彼女の「思い」が表現されています。

 

今回のコンサートに出てきたのはハドソンが所属していた聖歌隊や
彼女がお世話になったシンガーたちで、この舞台となった教会は、
彼女が以前歌っていたことがある、
彼女のオリジン、ホームグラウンドともいえる教会です。

 

だから、アカデミー賞のちょうど一週間前という大切な時期にも関わらず、
というか、だからこそお世話になった人たちへの感謝の意味も含めて
この教会で無料のコンサートが行われたのです。

 

さて、私もニューヨークのゴスペル教会や、
シカゴのゴスペル・フェスティバルでゴスペルは何度も聞いてますが
本場というか、本来だと黒人以外は
足を踏み入れることすらできない場所で聞く、
本場のゴスペルは一味違うぞ、
というのが正直な感想。

 

最初は少し距離をおいて聞いているものの、
徐々に観衆の熱狂に飲み込まれて、
エキサイト状態になり、最後には他の観客たちと
一緒に天に手をかざしてしまうという・・・。

 

完全なる異世界に酔いしれました。

 

本来だと、こんな黒人だらけの場所に
アジア人が二人だけポツリと存在していれば、
差別的な目で見られたり、居心地が悪い体験をするはずですが、
さすがは教会にくる人たちだけあって、
そうした変な目で見られることは全くなく、
むしろ居心地のよさすら感じられました。

 

さて、聖歌隊が何組か登場し、そしてシカゴでも有名なゴスペル歌手が
登場し、かれこれ2時間もたちました。

 

しかし、ジェニファー・ハドソンは、一向に登場しません。

 

まさか、「ジェニファー・ハドソンの仲間たち」、
つまりジェニファー・ハドソンにゆかりのある人たちが集まった
ジェニファーのアカデミー賞ノミネートを
祝福するためのコンサートだったのでは?

 

ジェニファーは登場しないのでは?

 

と不安になります。

 

念のために、チラシを確認しますが、
出演者としてジェニファー・ハドソンの名前が間違いなく入っています。

 

少しホッとしますが、
さらに、数名のシンガーのパフォーマンスが続きます。

 

そして、開演から2時間半がたち、
ようやくジェニファーの登場です!!!

 

一同、大喝采。全員総立ち状態で、前の柵のあたりに殺到したので、
さっきまで余裕でステージが見えていたのが、全く見えなくなりました。

 

しょうがないので、イスの上に立つとようやく彼女の姿が見えました。

 

ジェニファーの第一印象は、・・・やせている。

 

失礼。

 

でも、「ドリームガールズ」のハドソンは、ご覧になった方は
おわかりのように、かなりポッチャリとした印象。

 

そして、ジェニファーの第ニ印象は、・・・かなりの美人です。

 

これまた失礼。

 

でも正直、映画とは別人のようにホッソリとして、
すごい美人に見えました。

 

映画は、そういう「役」ということもあったので、
すこしポッチャリ風に役づくりをしていたのかな・・・
と思いました。

 

あるいはビヨンセと並ぶと、
どうしても太ってみえてしまうのか・・・。

 

映画のイメージでは、少しポッチャリとした骨太なイメージですが、
実際の本人は全く違っていたというわけです。

 

さて彼女の外見に驚かされたのは一瞬のこと。
ゴスペルを歌い始めた瞬間に、その声の美しさと声量に圧倒されます。

 

お~お~。
これが、ハドソンの生声か・・・。

 

圧倒的にパワフル。
そして、圧倒的に美しい。

 

「アメリカン・アイドル」で注目されたのも当然。

 

そのカリスマというか、存在感が違います。

 

26歳の若さでこれほどの存在感を出せるとは・・・

 

「ただものじゃない・・・」

6~7分ほど、彼女の歌声に酔いしれました。

 

素晴らしい。

本当に、すばらしい。

 

さて、次はどんな曲を歌うのかな・・・と思ったら・・・。

ハドソンは、声援を受けながら、舞台ソデの方へと歩いていきます。

そして司会の人は言っています。「ジェニファー、どうもありがとう」。

 

えっ、一曲だけかよ。

心の中で一人で突っ込みを入れました。

2時間半待って・・・一曲。

 

まあ、そうでしょう。

 

彼女のような大物。
さらに、無料のコンサートですからね。

 

そうです。

無料でジェニファー・ハドソンの生歌を聴けたのですから、
「一曲かよ」という突っ込みは失礼でした。

 

本当に、ありがとう。

心から感動しました。

 

今後、ハドソンの歌声をコンサートで聞くことはあっても、
ゴスペルチャーチで、99%の黒人に囲まれて、
彼女の歌を聞くことは二度とないでしょう。

 

本当に貴重な体験をありがとう。

 

満席なのに入れてくれた、
ガタイのいい黒人のお兄さん。
本当にありがとう。

 

以上です。

 

「ジェニファー・ハドソンに会いに行った!」
この体験は、3年間のアメリカ、シカゴ留学中の
最もグレイトな体験、ベストテンに入るもの。

 

私の素晴らしい思い出。

 

そして、ゴスペルを聞くたびに、この日の出来事を
ありありと思い出すのでした。

 

追伸
12年前の樺沢の文章、いかがでしたか?

 

まだ、作家として活躍する前の時代ですが、
意外とユーモアのある文章を書いていたものだ、
と自分で読んでいて、微笑ましい気持ちになりました。

 

メルマガ、ブログなどで情報発信していると、
ここまで詳細な出来事として「感動」が記録される。

 

やはり情報発信って、凄いことだなと改めて思います。


↓ 【樺沢紫苑公式メルマガ】の登録はこちらから(※メールアドレスを入力)