書評/映画評

宝物の抱きかた  ~今どき珍しいチョー重厚な人間ドラマ

『カメラを止めるな』の大ヒットで、
日本のインディーズ映画に注目が集まっています。

優秀な監督や個性的な俳優が、
まだまだ、たくさん埋もれているのではないか・・・。

『カメラを止めるな』は、
ファンの口コミで大ヒットにつながったわけですが、
私も映画評論家として、
無名な映画監督の作品を発掘して紹介したい!
という欲求もフツフツと湧いている。

そんな矢先、ある飲み屋を訪れたときに
店内に貼られて映画のポスター『宝物の抱きかた』が気になった。

「これどんな映画ですか?」と店主に聞くと
「僕が主演しているんですよ」と。

「それは、凄いですね。是非、見たいです」
という流れになって、
せっかく見るのなら舞台挨拶もある公開初日にしよう、
ということで
『宝物の抱きかた』東京公開初日に見てきました。

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主演の長山浩巳さんと、店で少し話しただけで、
どんな映画なのか、誰が監督なのか?
ストーリーも含めて、完全に白紙の状態での鑑賞。

私の感想は、





これほど濃厚な人物描写は、
最近の映画ではなかなかないぞ。
というレベルの重厚感のあるヒューマンドラマ。

兄の元に、子供を連れてふらりと帰ってきた弟。
そして、子育ての物語。

奇想天外なストーリーやアッと驚くようなラストはないです。

ひたすら、生活感のある日常の描写を通して、
兄と弟、そして子供との、人間描写が積み上がっていきます。

ストーリーがない、と言っても過言ではない。
しかし、濃厚な人間描写で、ラストではホロリとさせられます。

近年の日本映画には、ほとんどないパターン。
しかし、昔の映画は、こんな映画が主流だったはずです。

私はこの映画を見て、
『東京物語』の小津安二郎監督を思い出しました。

古い家屋の縁側に兄弟が腰掛けて、語り合う。
それを真正面のカメラで、長回しで撮っていく。

観客の目は、役者の演技に集中する。
誤魔化しが効かない映画作り。

映像的にも、そして物語の構成なども、
小津安二郎的なニオイを感じました。

長野の田舎の風景も美しく、
映像と役者の演技、人物描写、人間描写の積み上げだけでできている。
非常に古典的な、いや原点回帰的な
質の高いヒューマンドラマに仕上がっているのです。

この映画は、「兄弟の物語」ではありますが、
兄弟愛というような大げさなものではありません。

仲の良い兄弟ではないけども、特に「仲が悪い」というわけでもない。
しかし、何かギクシャクしたものもあり、
久しぶりに会ったときの会話もぶっきらぼう。

私も妹がいますが、久しぶりに会って、
何を話していいかわからない、という部分は確かにあります。

つまり、美化したり、映画のために
取り出されたわざとらしい兄弟関係ではない。

どこの家にもありそうな、
非常にリアルな兄弟関係が描かれています。

「こんな奴、実際にいないだろう」的な作品が多い昨今、
現実の延長としてのリアルな空間が描き出されます。

生活感のただよう日常描写の積み上げ。
そう、そんな平凡な日常の中に、
「宝物」が埋もれているかもしれないよ。

そんな「宝物」を見つけてみよう。
あなたの「宝物」は何ですか、というテーマには強く共感します。

私の好きなシーンは、
兄弟で母親の遺品を整理しながら、
母親の思い出を語るシーンです。

私の父親が3年前に亡くなりましたが、
遺品を通して、当時のエピソードを思い出すということは、
実際にあることです。

劇中では、兄弟が母親の思い出について語りますが、
その瞬間、私の脳裏では、自分と父親との昔の思い出が、
フラッシュバック的に蘇り、グッときました。

父親との思い出。
これが、私にとっての「宝物」だったのかもしれないな・・・と。

チョーわかりやすいエンタメ映画、
派手なストーリー展開が好きな人にはお勧めしませんが、
小津安二郎のような重厚な人間描写の映画が好きな人には、
非常に楽しめる作品だと思います。

『宝物の抱きかた』、樺沢の評価は ★★★★☆

『宝物の抱きかた』予告編はコチラから
https://takaramono.net/

 

追伸
「吉祥寺ココマルシアター」にて、絶賛上映中。
なななんと、向こう1週間は満席だそうです。

席は、このサイトから予約してください。
https://ticket.corich.jp/apply/93788/

 

 

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