書評/映画評

8年越しの花嫁(映画)を見て考えさせられた〜意識障害の患者に話しかけても意味がない!?

 

【映画の紹介文ではないので、
 映画ファンではない方も、最後までお読みください】

今年の私の目標は、
「魂を揺さぶられる映画をたくさん見る」
です。

逆に「絶対に魂を揺さぶられそうもない映画」は、
極力見ないようしようと思います。

結果として、年間100本見られたらいいな。
そして、その10本くらい、
「魂を揺さぶられる映画」を見られたら凄いな、と。
さて、現在放映中の映画『8年越しの花嫁』を見て、
プチ魂が揺さぶられました。

「猛烈に魂が揺さぶられる」というレベルではありませんが、
私の心が揺れたのは、間違いありません。
原作の『8年越しの花嫁 キミの目が覚めたなら』
というタイトル自体が全てネタバレ。

尚志と麻衣は、恋に落ち、婚約し、結婚式まであと三ヶ月という時。

突然、麻衣は錯乱状態となり入院、
その後すぐに、昏睡状態となり、全く反応がなくなってしまいます。

300万人に1人という超難病
「抗NMDA受容体脳炎」を発症してしまいます。

にもかかわらず、尚志は治癒の可能性を信じ、毎日看病をし、
なんと奇跡的に意識を回復し、『8年越しの花嫁』になる、という話。

別にネタバレではありません。
予告編を見れば、このくらいの「あらすじ」が全部わかってしまう。

タイトルが「8年越しの花嫁」ですから、
最後に回復するのは、わかりきっています。

病気を扱った涙頂戴のよくある感動モノ。
ストーリー単純そうで、結末もわかっているわけだから、わざわざ見る価値なし、

と完全にスルーしていましたが、先日、たまたま
主人公が「抗NMDA受容体脳炎」だということを知って、
これは「見ないと!」とピンときたのです。

 

なぜなら、映画『エクソシスト』で悪魔にとりつかれた少女が、
「抗NMDA受容体脳炎」ではないか、と言われているからです。

『エクソシスト』は、完全なフィクションではありません。
実際にあった「悪魔憑き」の事件を下敷きに、
フィクション的な演出で作り上げた作品。

ちなみに、『エクソシスト』は、
樺沢の映画史上、ベスト5に入れる作品。

ホラー映画というくくりでいうと、
ホラー映画史上ナンバーワンという思い入れのある作品。

ということもあり、
『8年越しの花嫁』を急遽、見に行くことにしました。

「抗NMDA受容体脳炎」の発病のシーンは、
幻覚、妄想が描かれていましたが、、
映画『エクソシスト』と比べると、ショッキングさはなく、
やわらかく描かれていたように思います。

ちなみに、「抗NMDA受容体脳炎」では、
極めて激しい精神運動興奮と幻覚、妄想、痙攣発作、不随意運動などが
出現する病気です。

本当は、「抗NMDA受容体脳炎」の症状の描写を見たかったのですが、
そうではない部分が、実は良かったのです。

主人公尚志の「寄り添い」が凄いのです。

意識のなくなった彼女に寄り添い続け、
毎日、片道2時間の距離を、バイクでとばして
病院にお見舞いに足を運ぶのです。

尚志は、決して、あきらめません。
麻衣の意識回復を信じて、意識のない彼女に、
不満もなく、真摯に、常に「寄り添い」続けるのです。

難病の治療は大変です。
治るかどうかわからない。

というか、多分治らない。

先行きが全く見えない介護。

かかった本人も大変ですが、
支える家族がもっとたいへんです。

この映画では、まだ家族ではない、婚約者がそれを支え続けるのです。
なんと8年も。

「こんな、真面目でいい人いるかよ」と思いますが、
実話なのです。

多分、実話でないと成立しない。
「こんな人、現実にいない!」とみんな思うでしょうから。

主人公が「いい人」すぎる。
それが、「いい人」を演じさせたらナンバーワンの佐藤建が演じている。

「何者」「亜人」「世界から猫が消えたなら」。
どれも、「目立った個性がない」ところが個性となって、
等身大の「普通の人」として、心に刺さる演技をしてくる。

本作でも、演出も淡々としているし、
演技も淡々としてるが、その淡々とした積み上げが、
徐々に心に突き刺さるのです。

意識が回復した麻衣に、別れを告げた尚志が、
車の中で一人泣くシーンがあります。

大げさに泣くわけではありません。

しか
普段、無表情な尚志として、かなりの「感情の露出」なのです。

この「抑制された感情の露出」が、ものすごくリアルです。
涙がこぼれます。

土屋太鳳の、患者としての演技もかなりリアルです。

精神症状を出して錯乱するシーン、痙攣のシーン、麻痺の表現、リハビリのシーン。
医者の私からみても、実際に動画などを見てよく研究したな、
と思うほどリアルでした。

そして、母親、薬師丸ひろ子の圧倒的に安定感のある演技。
「優しき支える母親」をやらせたら、この人の右に出る者はいないでしょう。

 

実話の迫力。実話の「尚志」さんが、本当に良い人なのでしょう。
そのリアリティを損なうことなく、見事に映画にしています。

ドラマティックではないし、感動的でもない。
だからこそ、「リアリティ」があるし、真実味がある。

病気の患者に「寄り添い」続けることは、
なみたいていのことではありません。

「愛」といえばそれまでですが、「愛」というか、
エゴに支配されない「人間愛」のような崇高な「愛」を感じさせる。

私は、患者を支えるというよりも、「寄り添う」という言葉を使うが、
主人公は、まさに「寄り添う」見本を示してくれます。

彼の介護もあって、奇跡的に麻衣は意識を回復します。

しかし、これは「奇跡」なのでしょうか?
私は、必然にも思えるのです。

 

意識障害で昏睡中の患者に、言葉をかけても、
本人は全く認識できないし意味がない、
という脳外科医、神経内科医も多いでしょう。

私は、かなり意味があると思っています。

重篤な意識障害の状態。
意識がないように見えて、意外と外界を把握している場合があるのです。
特に「聴覚」は生きている場合が多いです。

実際、昏睡状態の患者の横で、
医者が家族に「今日がヤマです」とか、話しているのを
後から、患者が回復後に、具体的に語ることは多いのです。

これを「幽体離脱」と考えるのか、
「意識障害でも、聴覚は保たれる場合がある」と考えるのか。
私は、後者の立場をとります。

ということで、
昏睡状態の患者でも、
「頑張って!」で寄り添い、言葉をかけることは、
私は意味があると思います。

さらに、人間というのは、言葉以外にも、ボディタッチの影響受けます。

映画でも、尚志が麻衣に寄り添って寝ているシーンがあるのですが、
それは間違いなく「オキシトシン」を分泌します。

「オキシトシン」は、癒やしのホルモンです。
「オキシトシン」が分泌されると、免疫力が高まり、
自然治癒力が高まるのです。

ですから、
尚志があきらめずに、毎日、麻衣に言葉をかけ、
ボディコンタクトを取り続けた!

これが、医学的にみても効果があったのではないか。

麻衣の意識回復は、「奇跡」ではなく、
寄り添いの結果の「必然」ではないのか、と考えるのです。

病気になると本人も家族も「あきらめる」人が多い。
あきらめたら、終わりです。
ネガティブな思考は、免疫力を下げます。

重たい病気になっても、
本人も家族も「あきらめ」ないで、
そして「ポジティブな気持ち」を持ち続ける。

それによって、病気が治る確率が飛躍的に高まるのです。
最近のポジティブ心理学では、
「ポジティブな気持ち」が免疫力を高め、
病気を予防し、寿命が伸びるというエビデンスを出しています。

病気になっても、あきらめない。
そうしたら、奇跡は起きるかも。
いや、起きるんだ!!

実際に、奇跡が起きたじゃないか!!!

それが、
『8年越しの花嫁』が私たちに伝えてくれるテーマです。

 

『8年越しの花嫁』予告編
https://8nengoshi.jp/