ぐっと来た! そして、泣いた。
「リンカーン」以来約3年ぶりとなるスティーブン・スピルバーグ監督作品。
予告編が地味で、全く期待していませんでしたが、
作品を見ると「さすがは、スピルバーグ」としか言いようがない、
素晴らしい作品に仕上がっています。
そして、トム・ハンクスの演技も素晴らしい。
ソ連とのスパイと捕虜の交換交渉にのぞむ弁護士の話。
と、あらすじだけ聞くと、全くおもしろそうではありません。
実際、派手なシーンは全くなく、ひたすら淡々とした「交渉」シーンが続くだけ。
しかし、そこで描かれる、「かけひき」や「心理戦」に、ぐっと引き込まれます。
2時間21分があっという間でした。
私が共感した見どころは二つ。
一つは主人公ドノバンの交渉力。「絶対無理」と思われる状況にも
最後まであきらめずに取り組み、誠実でストレートな弁舌で、
最後には相手を動かしてしまう、という。
そんなドノバンの「交渉のマジック」が見どころの一つ。
そして、もう一つがドノバンの「不屈の信念」、これが凄い。
引き受けた仕事を徹底して、最後まで貫き通すプロ根性。
社会からのバッシング、周囲の反対、さらに家族に危険が迫っても、
彼の信念が揺らぐことはありません。
それだけのリスクを背負っても、彼がスパイの弁護や交換交渉を引き受けた理由。
一言で言えば「信念」ということになるのでしょうが、
その「信念」が実に中立であり、クリアな印象がして、心にスーッと染みわたるのです。
ラスト近くに主人公が語る言葉、
「自分が正しいと思うなら、他人の目は気にするな」。
私も他人の目は、相当に気にしない方ですが、このセリフにグッときました。
アメリカ映画で「信念」というと、「国家のため」「家族のため」といった理屈が
全面に出るわけですが、この映画にはそうしたアメリカ映画的プロパガンダがほとんどありません。
社会からのバッシングを受けても自己犠牲を惜しまず、「信念」を貫き通すその様は、
救世主のようにも見えてきます。
あるいは、劇中で彼は「不屈の男」と呼ばれますが、
アメリカで「不屈の男」といえばジョン・ウェインを指すわけですが、
ビジュアル的にも意識して似せられているように見えました。
特に最後の方のシーンでは。
「ドノバン」=「不屈の男」=「ジョン・ウェイン」=「アメリカン・ヒーロー」
図式がおもしろい。
こんな聖人君主みたいな人は、絶対にいないだろうと思いますが、
こんな危険で何のメリットもないミッションを実際に引き受けた
実在のモデルがいたということに、二重に驚かされます。
スピルバーグ監督も69歳。
この映画は昔の派手さはないものの、心を深く掘り下げるような、
エネルギーが内面に向かって深まっている。そんな映画になっていると思います。
心にしみる、良い映画です。
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