書評/映画評

アメリカの歴史の光と闇 『エルヴィス』に魂が揺さぶられた!

『エルヴィス』。
見たかったのですが、近くのシネコンでの上映時間が
10時と14時からの1日2回になってしまったので、
見られないでいました。

今週から20時半の回が復活したので、
早速、見てきました。

凄い!
傑作!
魂を揺さぶられた!

圧巻の2時間40分。

本当に凄い映画でビックリしました。

ただ、多くの日本人には
全く理解不能な作品ではないかと思うのです。

まず、
冒頭のシーンで土肝を抜かれます。

エルヴィス・プレスリーの幼少期、
日曜日の礼拝、ゴスペルの狂乱状態に紛れ込み、
「精霊がおりた」状態になる!

神がかり。
いや、神から選ばれたのです!

そして、編集が凄い。
ある意味、スペクタクル映画!!

短いカットをリズム良く重ねて、
「音楽の演奏シーン」を「アクション映画」
のような迫力で見せていくのです。

そして、「エルヴィスの人生」を縦糸に、
「アメリカの歴史」を横糸に描いていく。

言うなれば、アメリカの年代記(クロニクル)。

黒人差別撤廃の公民権運動。
からの、キング牧師暗殺。
からの、ケネディー大統領暗殺。

そこに、リズム&ブルースにも起源を持つ
エルヴィスが巻き込まれていく、という。

激動の歴史。
激動のアメリカのどす黒い歴史に、
プレスリーとその家族は巻き込まれ、奔騰されていく。

「アメリカの歴史」。
特に黒人差別撤廃の公民権運動の流れに関しては、
概略でも知っていないと、
本作の意味がわからないと思います。

音楽映画の大本命!
誰もが知る名曲を、
そして熱狂を体感するミュージック・エンタテイメント

と、公式ページに書かれています。

しかし、この文言に騙されて、
『ボヘミアン・ラプソディ』のような音楽映画を期待した人は、
100%裏切られたでしょう。

実際、裏切られた人たちの書き込みを、ネット上に散見します。
かなり低い評価です。

音楽映画というよりは、
アメリカの「音楽」とともにアメリカの「黒人差別」の歴史を
描いた、歴史スペクタクルなのです。

なので、最低限の歴史イベントについて、
知っていないと、見ていて意味がわからないのです。

そして、最大のサプライズは、
本作は、エルヴィス・プレスリーが主人公かと思いきや、
実は違うということです!

プレスリーのマネージャー、パーカー大佐。
トム・ハンクス演じる、
この「パーカー大佐」が、とんでもない悪(ワル)です。

映画史に残る悪役、と言っても良いでしょう。
トム・ハンクスの演技力、半端ない。

「悪魔のような」というか、悪魔以上の「悪」。
そして、いかにも「悪」そうな表情を見せる
トム・ハンクス。

パーカー大佐は、
プレスリーから、
徹底的に金を搾り取ります。

プレスリーも家族も、本当に可哀想です。

太陽のような輝きを放つプレスリー。
そして、貪欲、強欲なパーカー大佐の「闇」。

この「光」と「闇」のコントラストがすさまじい。

『ショーシャンクの空』の
「虐待の闇」と「希望の光」くらいのギャップですかね。

そして、
太陽のような輝きを放つプレスリー。
と対称的に、アメリカに歴然と存在する「差別」の闇。

光と闇の対決。

それは、神と悪魔の対決のメタファーでもあるはずですが、
最後にどちらが勝つのかという・・・。

意外な結末にたどり着くのです。

いろいろな意味で、サプライズだらけの作品ですが、
音楽映画ファンから見ると、
「心の闇」よりも、音楽シーンをどストレートに描いて欲しかった、
と思うかもしれません。

ということで、どうみても万人受けしない作品であり、
日本人受けしない作品であり、
日本で全くヒットするはずかもない作品でありますが、
私は、こんなひねくれた、底なし沼のような「心の闇」を
2時間40分もかけて描き出した本作に、圧倒的に魅了されるのです。

それが精神科医というものでしょう。
「心の闇」と向き合うのが好き、
というド変態でなければ、精神科医は勤まりません。

時代に翻弄され、パーカー大佐に翻弄され、
時代の頂点から、薬物依存症の「どん底」へ転落していくプレスリー。

しかし、それでも彼は、歌い続ける。

命をかけて。そして本当に、命をかけてしまう。
これぞ、本物のシンガー。

魂が揺さぶられる!
泣けてくる!

光と闇の落差が大きいだけあって、
ラストの感動も大きい。

私が好きなシーンは、最後の最後。
妻に「(活動を休止すると)自分のことなんか、すぐに忘れられてしまう」
と告白するシーン。

アメリカの一時代を築いたプレスリーが、
そう簡単に忘れられるはずがない。

しかしながら、本人にとっては、自己イメージ、
そして自己肯定感がもの凄く低いのです。

このシーンを見て、そのだいぶ前のシーン。
母親の死に泣き崩れるシーンが、非常に腑に落ちるのです。

プレスリーを全肯定していたのは、唯一「母親」だったわけですから。

「認められていない」感を常に持ち続けてきたプレスリーを
唯一、真に支えていた母親の喪失は、
プレスリーに大きな心の影を落としたことでしょう。

母親のテーマ、
父親のテーマ。
そして、バッドファーザー(悪しき父親)など、
心理学的にも超見所満載の作品です。

このように、細かい心理描写を解説していくとキリがないのですが、
細かいところまで、驚くほど精緻に作り込まれた傑作です。

年間ベスト3、相当!!

『エルヴィス』 樺沢の評価は・・・★★★★☆ (4・8)

ただし、先述のように、シンプルに音楽映画を期待する人には、
ものすごく「つまらない映画」に見えるかもしれません。

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