書評/映画評

『知能はもっと上げられる 』~頭の良さは生まれつき決まっている?

『知能はもっと上げられる 』(ダン・ハーリー著、インターシフト)を読了。非常にエキサイティングな脳科学読物でした。
 
100年以上もの科学的研究によって流動性知能は生まれつきほとんど決まっていて、トレーニングでは鍛えられないなとされてきた「脳科学常識」が、2008年に出た画期的論文以来、知能(おもに作業記憶と関係した能力)はトレーニングによって鍛えられる可能性がある。ということを膨大な論文と精緻な取材によって明らかにしています。
 
著者のダン・ハーリー氏は、研究者ではなく科学ジャーナリストで、この本のために「知能」に関わる多くの研究者に直接、インタビュー、取材を行っています。
 
単なる論文をまとめたレビュー本とは一線を画するとともに、文章のプロが書いているだけあって、文章が読みやすく、350ページもある分厚い本でありながら、読み始めると、最後までイッキに読んでしまう。
 
古い考えに凝り固まったその道の権威と、新しい考えの若手研究者の対決は、実にスリリング。そんな、読ませる勢いを持った本でもあります。
 
ただし、「知能をアップさせるためのノウハウ本」ではありませんので、本の帯にあるような「最新の脳トレから食品まで 科学で認めた方法はこれだ!」を期待する人は、ガッカリするでしょう。
 
なぜならば、知能をアップさせる方法。科学的に十分に確証が得られた方法は、「運動と脳トレとの併用」くらいなものだからです。

脳トレによる知能上昇効果あまり期待できないという残念な結論ではありますが、ADHDや頭部外傷後遺症、統合失調症などのメンタル疾患や器質疾患で、認知機能が下がっている患者さんにたいするリハビリ効果、治療効果としての脳トレはかなり期待がもてるデータが提示されていました。ADHDや統合失調症の治療として「脳トレ」が導入されるかもしれない、というのは精神科医として非常に興味を持ちました。
 
「作業記憶」というのが、最近の脳科学分野では非常に注目されるトピックの一つであり、私の『覚えない記憶術』では、第6章「脳メモリ解放仕事術」として「作業記憶」のビジネスや実生活への応用について書きましたが、ビジネス書の類で「作業記憶」について書いた本は、ほとんど出ていないというのが現状でしょう。
 
本書では、タイトルでは「知能」ということになっていますが、大部分が「作業記憶」についての最新研究の紹介がメインになっています。作業記憶を鍛えると、「根本的な知能(頭)がよくなる」かどうかはハッキリしないものも、「頭の回転が速くなる」「作業スピードがアップする」ことはいえそうです。
 
「作業記憶」のトレーニング(本書でも紹介されている脳トレゲーム)を自分でも実践してみて、作業記憶が本当にアップするのか、試してみたい衝動にかられました。
 
脳科学読み物が好きな人にはワクワクする1冊。
ビジネス書的ノウハウを期待する人には、おすすめしません。

『知能はもっと上げられる 』(ダン・ハーリー著、インターシフト)
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