『「孤独」は消せる。 』
(吉藤健太朗 著、サンマーク出版)
「孤独」というのは、非常に重要な問題です。
現在、日本では、世帯の3分の1が単身世帯。
その割合は、今後も増え続けて、
約2分の1近くまで増えていくと予想されています。
老人も若者も、一人暮らしの人が増えていく。
「孤独」の問題は、日本が抱える極めて深刻な問題。
普段からそう思っていたので、
この『「孤独」は消せる。 』というタイトルを見た瞬間に
「読みたい!」と思いました。
著者の吉藤健太朗氏は、ロボット開発者なのですが、
なぜロボット開発者が「孤独」の本を書いたのか?
と好奇心がかきたてられます。
吉藤氏が作るロボットは、興味深いことに、
AIを搭載していないのです!
ロボットで孤独解消という切り口だから、
ペッパー君のような、
AIでコミュニケーションをするロボットが出てくるかと思ったら、
そうではないのです。
吉藤氏の開発したロボット「OriHime」は、分身ロボット。
アバターとでもいいましょうか、
テレビ電話のロボット版とでもいいましょうか?
「そんなことで孤独が癒されるのか?」
と思いますが、
ALS患者が「OriHime」を自らの分身として活用したり、
「OriHime」を使ったテレビ会議の実例など、
孤独が癒されている実例が多数、紹介されています。
この分身ロボットを介してコミュニケーションが深まり、
実際に孤独が解消されているのです。
吉藤氏が、なぜそんなロボットを開発しようと思ったのか?
それは、小学校の頃から何年も続いた、
不登校、ひきこもり体験と深く関係していますが、
その体験の告白が壮絶。自己開示が凄いです。
自分が本当の「孤独」を体験しているからこそ、
「孤独」を何とかしたい!
という「思い」が湧き上がったのでしょう。
人を癒やすのは、人である。
私が日頃からよく言うことばですが、
ロボットは人を癒せないのです。
おそらく。
しかし、この「OriHime」というロボットは、アバターなので、
人と人とが「OriHime」を介してつながる、というイメージ。
やはり、
人を癒やすのは、人であり、
それを促進するのが、このロボットの役割なのです。
私も精神科医として「孤独」の問題は、
日頃から考えることが多いのですが、
ロボット開発者という意外な職業からの「孤独」へのアプローチを、
実に興味深く読みました。
ロボットやAIが、今後、どのような進化を遂げるのか?
私たちの生活をどのように変えていくのか。
ロボットやAIの話になると、
人間がロボットやAIに支配されるとか、
ネガティブな見解が多い中、
本書で紹介される「ロボット研究」は、
人間とロボットの新しい関係性に斬り込んでいる、
と感じました。
孤独、コミュニケーション、ロボット。
この辺のキーワードに、関心がある人は、
興味深く読める一冊だと思います。