書評/映画評

睡眠こそ最強の解決策である ~睡眠が解き明かす健康と進化の秘密、まるで推理小説のような脳科学本

昨今の出版事情を見ると「空前の健康本ブーム」と言っても、
過言ではないでしょう。

 

睡眠、運動、食事、マインドフルネス、休息。

 

科学的根拠に基づく健康本の出版ラッシュ。
これらの健康本、ベストセラーの棚に、必ず数冊は入っています。

 

これだけ健康本が増えると、「どれを読んでいいかわからない」
という人も多いと思います。

 

「健康になりたい!」という人に、
とりあえず一冊だけ読むべき本を推奨するとするなら、
私はこの本を選びます。

 

『睡眠こそ最強の解決策である』
(マシュー・ウォーカー著、SBクリエイティブ)

https://amzn.to/2LezyQd

 

その理由は、

(1)「食事、運動、睡眠のうち、健康のためにもっとも大切なのは、睡眠である」から。
(同書、本文より引用)

(2)多くの睡眠本の中でも、「決定版」とでもいうべき内容を備えている。
睡眠の重要性と睡眠障害の危険性を多くの論文とともに明らかにしているから。

です。

 

さらに、この『睡眠こそ最強の解決策である』は、
読みやすく、わかりやすく、文章にユーモアもあります。

 

著者のマシュー・ウォーカー教授は、
ハーバード大学医学部の精神科助教授を経て、現在、
カリフォルニア大学バークレー校にて神経科学と心理学の教授を勤めています。

 

大学教授の書いた本で、
学術的な正確さ備えた本格的な本は山ほどあるのですが、
むしろ内容が本格的になるほどに「読みやすさ」が損なわれる本がほとんどである中、
本書は知的好奇心をそそる「面白い科学読み物」でもあるのです。

 

自ら仮説を立てて、圧倒的な研究、論文で、そして見事な論理で、
その仮説の確かさを訴えてくる。

 

明晰な推理で事実を解き明かす、
シャーロックホームズのような推理小説のおもしろさを備えているのです。

 

そして、大学教授とは思えない、
ユーモアのある文体や事例も見逃せません。

 

例えば、

>余談ではあるが、さらに科学的根拠があるわけでもないが、
>私は以前から興味を持っていたことがある。
>マーガレット・サッチャーとロナルド・レーガンという2人の国家元首は、
>いつも4時間から5時間しか寝ていないこと、自慢ではないにしても、
>声高に宣言していた。
>そして、二人とも、晩年はアルツハイマー病を発症している。
>そして現アメリカ大統領のドナルド・トランプも、睡眠2~3時間で
>十分だと豪語している。
>おそらく彼も、2人の先輩の例を心にとどめておいたほうがいいだろう。

「睡眠不足」と「アルツハイマー病」の因果関係は証明はされてはいないものの、
本書では、多くの論文を引用しながら、
睡眠不足がアルツハイマー病の危険因子として、極めて疑わしいことを、
圧倒的な説得力をもって、論証していきます。

 

多くの本で、多くの学者は、「O」か「X」かの議論しかしません。
「エビデンスがでていないので、科学的に証明されていません、以上」みたいな。

 

科学的な議論としては正論ですが、
実につまらないし、正直、くだらない。

 

なぜなら、「今、証明されていない」というだけで、
5年後、10年後、エビデンスが蓄積されると、
「X」が「O」に変わることは、いくらでもあるからです。

 

単に、今のところ、証拠不足で、結論が出ない、というのが多すぎます。

 

そうした、不確定な部分を、「推論」という形にはなるけれでも、
本書ではウォーカー教授は、かなり「責め」の姿勢で、
強気の仮説を打ち出しつつ、
十分に説得力を持って読ませるのです。

 

「科学者の議論」と「科学読み物」のギリギリの線を
巧妙に攻めているのです。

 

現時点では、
「睡眠不足」は「アルツハイマー病」の原因として疑わしいものの、
大規模な疫学的な調査による裏付けはありません。

 

しかし、
「アルツハイマー病患者の60%は、最低でも一つの睡眠障害を患っている」とか、
「睡眠中に、アルツハイマー病の原因物質、アミロイドベータ蛋白が除去される」とか、
「睡眠不足と記憶の定着は関連している」とか、様々な状況証拠によって、
「睡眠不足」が「アルツハイマー病」の犯人として、限りなく有罪が疑われる。

 

科学者なので、「断言」はしません。

 

でも、「限りなくクロが疑われる」ということを、
読み物として説得力をもって伝えているし、
読者に対して「認知症の危険を承知で、睡眠を削りますか?」と
問いかけてくるのです。

 

ということで、科学的な議論、論証というよりは、
「推理小説のような脳科学本」という表現がぴったりと来るのです。

 

本書では、長年、睡眠学者の間で議論となっている、
様々な問題に対して、自分なりの「仮説」を提示し、
それを多くの論文、そして多くの自験例(自分の研究グループで行った実験)を証拠に
論証を進めます。

 

例えば、「人間はなぜ夢を見るのか?」「レム睡眠はなぜ存在するのか?」
そもそも「生物にとって、なぜ睡眠は必要なのか?」といった問題について、
わかりやすく解説しています。

 

本書の内容を一言で言うと、

記憶力、創造力、感情の安定、自殺予防、うつ病予防、認知症予防、
がんの予防、心臓発作の予防、免疫力、幸福度、
美しさ(外見)、ダイエット、長寿などの全てに
「睡眠」は絶大な効果がある!

ということを、多くの論文、科学研究を引用しながら明らかにしています。

 

もしあなたの睡眠時間が、6時間を切っているのなら、
あなたその睡眠不足によって
記憶力の低下、創造力、発想力の低下、がんのリスクを40%増やし、
免疫力を70%低下させ、食欲増加、肥満と糖尿病の原因を作り、
寿命を縮めていることが、よーーーーく理解できるはずです。

 

この本は、
睡眠についてよくある質問の95%は網羅しているでしょう。

 

例えば、あなたも思っているはず。

 

「本当に必要な睡眠時間は何時間か?」

 

本書の結論はコチラ





>平均して覚醒が16時間、睡眠が8時間が最適なバランスだ。

 

あなたは、8時間は眠っていますか?

 

もし、あなたの睡眠時間が、6時間を切っている人は、
この本を絶対に読んだ方がいいと思います。

 

「私は、7時間寝ているから大丈夫」
という人も要注意です。

 

ちなみに、本書も書かれていますが、
布団に入っている時間=睡眠時間(実際に寝ている時間)ではないのです。

 

7時間布団に入っている人は、真の睡眠時間は6時間半くらいしか、
とれていない可能性があります。

 

ちなみに、樺沢は何時間寝ているのか?






ここ1週間の平均ですと、8~9時間寝ています。

 

少々寝過ぎかな・・・と思っていましたが、
「これでいいのだ!」ということが、本書を読んでよくわかりました。

 

本書は、
サンデータイムズにてベストセラー1位。
タイム誌ほか5誌で2017年ベストブックスに選ばれた、
全米ベストセラーの一冊。

 

その理由は、この本を読むとよく分かります。

 

ということで、私は
日本で出ている睡眠本はほぼ全て読んでいますが、
そのわかりやすさ、読みやすさ、科学的正確さ、
そして網羅的に書かれているという点でも
「睡眠」の百科事典のような一冊。

 

間違いなく、ホームラン本です!!

 

『睡眠こそ最強の解決策である』
(マシュー・ウォーカー著、SBクリエイティブ)
https://amzn.to/2LezyQd

 

追伸
翻訳も素晴らしいと思います。
ここまで読みやすいビジネス書の翻訳は、なかなかないです。

 

樺沢紫苑の新刊の内容がひと足先に読める!!
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