書評/映画評

ファーストラヴ ~トラウマには立ち向かうのは良いことか?

ここ一週間、人生で1番忙しいのではないかというくらい
締め切り仕事が立て込んでいるのですが、
とはいえ映画を見ないと上映は終わってしまう。
ということで、映画『ファーストラヴ』を見てきました。

結論は、見ておいて良かった・・・。
というか、心理学的にディープな部分を描いた見応えのある作品でした。

いろんな意味で賛否両論あり得る作品でしょうが、
魂は揺さぶられました。

心理カウンセリングにおいて、
過去のトラウマを全て明らかにして、
そこに直面して現実を変えていこう。

フロイト、ユング以来の古い学派は、
「過去」の出来事、過去の人間関係と対決して
乗り越えて行くことを推奨します。

一方で、最近のアドラー心理学に代表されるように、
過去を扱っても苦しいだけで意味がない。
「今」できることに特化して、「未来」に向った方がいい
という、流れもあります。

本作の北川景子演じる心理師は、過去のトラウマとバリバリ向き合う派。
そして、それを本人に突きつけまくる。

その辺の描写は、心理カウンセリングの現場を知っている人間からすると、
「やりすぎ」というか、かなり違和感はあるわけですが、
映画なので、わかりやすく説明しないといけない、
という「縛り」の中で、私としては許容範囲であった。

人間の「深層心理」や「心の傷」というテーマを、
うまく映画にしていると思う。

『約束のネバーランド』で、女優としての限界を突破したかのような
北川景子の演技に目を奪われるし、惹きつけられる。

自分のトラウマをクライアントに投影したり、
どうみても良い心理師とは言えないわけですが、
「クライアントを救いたい」という彼女の情熱や、
治療者としての「本気度」が感じられる点が、高評価の理由です。

自分のトラウマをクライアントに投影してのめり込んでいく。
「逆転移」と言われる心理状態に陥るわけですが、
本当だと心理師としては「避ける」べき状況ではありますが、
それを(多分)分かっていながら引き込まれていく、
危機。心の危うさが、本作の魅力かもしれません。

教科書通りのカウンセリングが、
クライアントにとって本当に役に立つのか?

クライアントともに、苦しみ、脱線し、遠回りしてでも、
何とかゴールに到達するような、
こんな熱血な(悪く言うと「非常識な」)カウンセリングがあっても
私は良いと思うのです。

本作における、心理師のやり方はベストではないけども、
「熱意」と「情熱」はある。そして、そこに、心打たれるのです。
最後のクライマックスでは、涙が流れた。

悪く言えば、
自分のトラウマを解決するためにクライアントを利用している
という指摘もあり得るでしょうが、
自分の「経験」「失敗」「苦痛」「苦悩」と
全く別な次元で、全く影響も受けずに、
カウンセリングをする。

カウンセリングに限らず、仕事をしていく。
人と関わっていく、というのは、そもそも不可能なのではないのか?

過去の「経験」「失敗」「苦痛」「苦悩」をフィードバックして、
何とかより良い方向へと舵を切ろうと、
人間は必死に生きるものだから。

まあ、そういう「失敗」「苦痛」「苦悩」などのも
マイナス部分も含めて、「自分」なのである。

人を癒やす、人を治療するとはどういうことか?
と同時に、「自分を癒やす」とはどういうことかを、
深くえぐり出すような作品になっている。

あと「娘による父親殺し」「娘と父」というテーマの作品が、
最近増えてきている、という流れの中で、
本作はかなりの異彩を放っている。

もし私が、「父と娘」というテーマで本を書くとするならば、
当然、引用しなければいけない一本となるだろう。

熱血な心理師や精神科医が、
良いのか、悪いのかという議論は昔からある。

どちらかという、
「あまり良くない」という意見が主流であるが、
人を突き動かす「情熱」というものは必要じゃないのか。

そんなことを、いろいろ考えさせられる本作は、
なかなか見応えのある作品であったことは間違いない。

『ファーストラヴ』 樺沢の評価は ・・・ ★★★★ (4・3)

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コメント

  1. たろう より:

    昨日ファースト・ラブを見てモヤモヤしていたことを可視化してくれていてありがとうございます。
    心理師のやり方はベストではない。その通りだと思います。

    私は見ていて違和感を感じたのは、治療のために会っているのではなく、被疑者の心情を記事として出版するという前提条件に違和感が大きいです。

    情熱的な心理師・精神科医がだめとは良いませんが、熱意を秘めたまま全力で向かい合って欲しいなと個人的には思いました。

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