書評/映画評

夜明けのすべて ~メンタル回復のプロセスがよくわかる傑作!

『夜明けのすべて』が、素晴らしい。

精神科医として、見逃してはいけない映画でした。

タイトルを言い換えると、
『回復のすべて』と言ってもいい。

病気が回復(リカバリー)するとは、どういうことなのか。
そのために必要なことは。
それが、ごく普通の日常生活の中に、一つ一つ描かれています。

私のYouTube動画では、
「病気を受容して、病気と共に生きていこう」
「回復を焦らない。無理をしないで、マイペースでいこう」
「回復とは、病気を直すことではない。楽しく、自分らしく生きること」

など、回復についてのアドバイスを述べています。

でも、患者さんとしては、
「じゃあ何をどうする?」が、全くわからないのです。

それが本作をみると、「回復する」とはどういうことなのか。
それが、ステップ・バイ・ステップで、丁寧に描かれています。

PMS(月経前症候群)の藤沢さん(上白石萌音)。
パニック障害を抱える、会社の同僚・山添くん(松村北斗)。
病気を持つ2人が関わることで、
なかなかコントロールできなかった病気が、
少しずつ回復へと向かっていくのです。

PMSの症状、感情のコントロールがきかなくなる。
藤沢さんは、月に一度、職場で感情を爆発させてしまうのです。

そして、山添くんはパニック障害で電車に乗れない。
美容室にも行けない。かろうじて、職場に通い、
誰ともコミュニケーションせずに、淡々と生きている。

そんな2人が出会うことで、
「共感」が生まれます。病気の回復に必要なのは、
「つながり」です。オキシトシンが必要なのです! 
病気を抱えているからこそ、理解できることがある。
人のためにできることがある、という。

本作は『PERFECT DAYS』と似ています。
『PERFECT DAYS』では、
トイレ掃除人の日常を淡々と描いていました。
本作では、病気や「心の傷」を抱える人たちの日常を、
淡々と描いています。
何も特別な出来事は起こらない。
しかし、それは「調子が悪くない」という、素晴らしい状態なのです! 
普通に会社に行けて、普通に家に帰ることが、実に「幸せ」なことなのです。

多くの患者さんは
「元の会社に戻ること」が社会復帰と考えますが、
それが「無理」や「焦り」を招いて、失敗の原因にもなります。

「自分の居場所」を見つけることが大切です。
2人は、それぞれ「自分の居場所」を見つけることで、
精神的な安定を得て、急速に回復へと向かって行きます。

2人の病気が良くなりました、という説明はどこにもありません。

しかし、上白石萌音と松村北斗の表情や演技で、
すべて説明されています。

前半の「生気のない表情」「不安と孤独」を違和感なく、
見事に演じていました。最後の上白石の愛くるしい笑顔、
靴村の爽やかな表情が、すべてを物語っています。

メンタル患者を描いた作品はたくさんありますが、
激しい精神症状やドラマティックな展開、
映画的に過剰に演出されることが多いのです。

しかし、本作は、すべてが非常に自然であり、リアルです。
メンタル患者さんの日常は、正しくこんな感じだと思います。

本作は、「メンタル患者の日常をフツーに描いた作品」
なのですが、意外とそんな作品はないのです。

『PERFECT DAYS』と同様に、淡々とした日常描写の中で、
藤沢さんや山添くんに、ぐいぐいと引きつけられていく。

いや、最初は「こんな人と近づきたくない」と思うかもしれません。
しかし、それが少しずつ変化していく。応援したくなっていく。

我々、観客の気持ちも、変化していくのです。
知っていると怖くないのです。

メンタル疾患、メンタル患者についての情報不足が、
恐怖や偏見を生んでいます。

本作を見れば、メンタルの人って、こんな風に悩んでいるんだ。
苦しんでいるんだ・・・というのが、手に取るようにわかるのです。

そんな映画は、なかなかない。
2人を支える、職場の人たちも心やさしい。

病気を癒やすのは、「人」しかないのです。
そのためには、自分から心を開くことも必要です。

病気の回復のために、必要なすべての知識が、さりげなく描かれている。

『夜明けのすべて』は、『回復(リカバリー)のすべて』
と言っても過言ではありません。

心に染みる。
素晴らしい作品です。

『夜明けのすべて』樺沢の評価は・・・★★★★☆ (4・7)
(年間ベストテン水準)

追伸
PMS(月経前症候群)は、厳密にはメンタル疾患ではありませんが、
実際に現れてきる症状は、不安、焦燥感、感情のコントロールがきかず、
感情爆発してしまうなど、メンタル疾患に近い部分があります。

冒頭で藤沢さんが処方される「アルプラゾラム」という薬は、
精神科で非常に一般的に使われる抗不安薬です。

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コメント

  1. まる より:

    >「病気を受容して、病気と共に生きていこう」
    >「回復を焦らない。無理をしないで、マイペースでいこう」
    >「回復とは、病気を直すことではない。楽しく、自分らしく生きること」

    メンタル疾患中ですが上記を参考に焦らず生きていこうと思います
    自分の居場所を見つけたいです

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