書評/映画評

異端の鳥の衝撃!! ~ベネチア映画祭で途中退場者が続出の問題作

映画ライターの武部好伸さんのFacebookに、
試写会で見た『異端の鳥』が凄かった、
という感想が頭にこびりついていて、
「『異端の鳥』を見ないと」と思ってはいたのが、
「幸福セミナー」の準備などで見るタイミングを逸してしまい、
上映している劇場が減ってしまった。

ネット検索すると横浜の「kino cinema」で上映していることを知る。
丁度、断食道場、伊豆高原からの帰り「横浜」を通るではないか! 
上映時間「2時間49分」にもビビるが、
断食道場で1週間不在にしていたので、
帰ってやることもたくさんあったのでかなり迷うが、
これは、『異端の鳥』を見ろという神の啓示と考え、横浜で下車することに。

『異端の鳥』は、ベネチア映画祭で途中退場者が続出しながらも、
ラストまで見た人たちは10分以上のスタンディングオベーションが続いたという、
いわく付きの問題作。
これだけで見たくなる。

さて、実際の感想は。

ヤバい。魂が揺さぶられる。
それ以前に「感情」がものすごく揺さぶられる。

確かに噂通り「残酷描写」が苛烈。
そして、生々しい「性描写」も。

ただしそれは、タランティーノの残酷描写などは、全く対極のもので、
ある意味「ドキュメンタリー」に近い。
リアルの、実際にありそうな、生々しい迫真の現実。
とでも言おうか・・・。
あるいは、心理描写のために必要な残酷でもある。

そうした、残酷で苛烈な描写を通して、
戦争の持つ悲惨さ、あるいは人間の持つ
「人間の悪意」「心の闇」「暴力的な本性、衝動」が、
むしろ淡々と描かれる。

第二次世界大戦下の東欧。
ユダヤ人の少年は、ホロコーストを逃れるため
一人で田舎のとある親戚の老婆の元へ預けられるものの、
親戚の死によって完全に1人ぼっちとなり、
逃亡生活を送ることになる。

少年を助けるように見せかけて、
少年を奴隷のようにこき使ったりするひどい人間が次々と登場する。

しかし、食べ物も食べられずに、飢え死にするか、
厳寒の冬に凍死するよりは、ましなのかもしれない。

「食事」のシーン、ただ「ベッドに寝る」だけのシーンが、
本作では極上の「幸せ」として描かれている。

いや、生きているだけで、幸せなのだ!!

「生きる」というのも、本作の1つのテーマである。
とにかく、この少年は、苛烈な暴力、虐待を受けながら生きようとする。
どこまでも、必死に。

残酷描写には気が萎えるが、必死に生きようとする少年に救われる。
そして、数人ではあるが、少年を助けようとする者も現れる。
地獄の中に垂れ下がる「蜘蛛の糸」のように。

3時間近い大品であるし、セリフも非常に少ない。
しかし、最初から最後まで、一瞬も目を離す暇もない。
そして、次の残酷な描写に身構えるように、ピリピリとした緊張の中、
作品を見続けるしかない。

全く時間を感じさせない。
全編、モノクロ映像。
寂寥感のある風景は、少年の心象風景のようでもある。
私の大好きなタルコフスキーの映像を思い出させる。
特にストーリーは、『僕の村は戦場だった』にも通じる。

これは、「壮大な叙事詩」である。
頭と心を強烈に殴られたかのような衝撃。

確かに、いや間違いなく「問題作」である。
本作は、全ての人にはお勧めできない。
残酷描写に弱い人には無理だろう。

しかし、そんな残酷は戦時中は、普通に行われていただろう、
というのが本作のテーマであり、
残酷描写が「必要」である理由でもあろう。

勇気のある人は見て欲しい。

とにかく、見逃さなくて良かった。
それだけは、間違いない。

『異端の鳥』樺沢の評価は・・・『異端の鳥』★★★★☆ (4・7)

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