書評/映画評

『君たちはどう生きるか』 【精神科医が解説】

3行でわかる『君たちはどう生きるのか』

大叔父 自分を継いで、世界を救え!
眞人  嫌だ!
大叔父 じゃあ、自分の世界を作れ!

以上

やはり、「3行」で説明するのは無理か・・・。

物事は、シンプルに考えた方がわかりやすい。
このたった3行の「継承の拒絶」こそ、
『君生き』理解の重要な鍵となります。

大叔父が眞人に継承しようとし「積み木」の話。
13個の積み木の意味を考えてみましょう。

今まで、12本の長編アニメを製作してきた宮崎監督。
本作『君生き』(12本目)か、最後のアニメ作品になる、
と本人は言います。

12個の積み木を積んできたが、
最後の1つが積めないので世界は破滅する。
自分を継いで、世界を救ってくれ!
 
3日に1個ずつ積み木を積んで、
13個の積み木を積むと、世界は救われるという大叔父。
しかし、眞人はそれ(継承)を拒絶するのです。
 
マーベル映画に代表されるように、
「世界を救う」映画が大流行するなか、
「世界を救わない」という展開は驚きです。

みなさんお気づきとは思いますが、
眞人が迷い込んだ「異世界」には、
過去の宮崎作品の断片がてんこ盛りです。

「神隠し」と言えば『千と千尋』。
サギ男は『もののけ姫』の「そじ坊」、
眞人を助けるキリコは、千尋を助けた「リン」にかぶります。
宇宙から来た不思議な石は、ラピュタの「飛行石」、
魚の大量発生は『ポニョ』、「こっちだよー」のセリフの『千と千尋』と、
列挙していけば、何十個でも挙げられるでしょう。

大叔父が、維持してきた異世界。
大叔父=宮崎、と考えれば、
宮崎の長編アニメのエッセンスが詰め込まれた「異世界」は、
宮崎駿が作り上げてきたアニメの世界、
ジブリの世界、創造とイマジネーションの世界と考えられます。

3日に1個ずつ積み木を積む

眞人の母・ヒサコが1年の神隠しにあったにもかかわらず、
神隠しにあったほぼ同じ格好で発見された。
浦島太郎の竜宮城と同様に、
「異世界」と「現実」は、時間の流れが違うようです。

3日を3年と考えると、どうなるのか。

アニメ作品を作るには、約3年かかります。
宮崎駿が、最初の長編アニメ『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)を
公開してから、2~4年おきに新作を公開しています。
10作目の『風立ちぬ』が2013年ですから、
34年で11本の長編アニメ映画を作っており、
丁度、3年ごとに積み木(作品)を積んできたのです。
(『風立ちぬ』から本作までは、
10年空いてしまったのはのぞいています)

「継承」という視点で、
本作を振り返ると非常にわかりやすいです。

大叔父 自分を継いで、世界を救え!
眞人  嫌だ!
大叔父 じゃあ、自分の世界を作れ!

改め

宮崎駿の息子「宮崎吾朗」とのやりとり

宮崎駿  ジブリ映画を継いでくれ! 
宮崎吾朗 嫌だ!
自分の世界(ジブリパーク)を作って、大成功!!

似たようなやりとりが、
『エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督(スタジオカラー)。
『借りぐらしのアリエッティ』の米林宏昌監督(スタジオポノック)
との間でもあったかもしれません。
 
庵野監督も米林監督も、スタジオジブリを継承しませんでしたが、
「自分の世界」を作って、個性を発揮しています。

そもそも、宮崎駿の先輩である高畑勲監督とも
似たようなやりとりがあったばすです。

13個目の積み木が積めない。
世界は破滅する。

「13」というのは、「13日の金曜日」「13階段」(絞首台の階段の数)
に使われるように、「死」をイメージされる不吉な数です。

積み木を積まなければ、
この世界はあと「1日」で破滅する。

82歳の宮崎駿。
あと「3年」(=1日)もすれば、自分も死ぬ。
高畑勲監督が亡くなったのも82歳。
死を身近に感じる年齢。自分の過去作品の締めくくりとして、
『君生き』を作ったということ。

そして、死を前にして、スタジオジブリであり、
自分を継承する者がいない・・・という事実。
それを悲嘆しているのかと思えば、そうではないでしょう。

眞人には、この世界を救えないなら、
「自分の世界を作れ!」というメッセージを出しているのですから。

つまり、老人たちの作り上げてきた既成概念、固定概念、常識、前例に
縛られた「今までの世界」はぶち壊して、新しい世界を作れ!

自分の世界、自分たちの世界を「仲間」と協力しながら作れ! 
ということです。

進入禁止の「産屋」に足を踏み入れた眞人。
「禁忌を犯した」という描写の意味は、過去の因習、常識に縛られるな! 
という上記のメッセージにそのまま通じるのです。

この「継承」の問題は、
宮崎の個人的な問題に限らず、
少子高齢化が進む日本で
高齢化する経営者からの企業絵の「継承」の問題。
古い慣例に縛られた、政界、財界などの問題へと、
普遍化して理解することも可能です。

現実世界に「積み木(石)」を持ち出した眞人

異世界から現実に戻った眞人。
その手の中には、「積み木(石)」と「キリコの人形」が
握りしめられていました。

その意味は?

ここまでわかれば簡単です。

積み木の象徴は、「宮崎駿の世界」です。

継承しませんとキッパリと否定した眞人ですが、
実は(本人が意識せずに)「積み木」を持っていた。

米林監督のアニメのキャラは、ジブリ映画のキャラそのものです。
庵野監督にしても、作られる作品世界は独特ですが、
「宮崎駿とは違う世界観を作ろう」と大きな影響を受けています。

「三鷹の森・ジブリ美術館」「ジブリパーク」で成功している
息子・宮崎吾朗は、映画監督を継ぎませんでしたが、
宮崎駿の世界観があってのテーマパークの成功です。

全てを受け継いだ人はいないけども、
「石の一個くらいは受け継いでもらえたかな・・・」
というのが、今の宮崎監督の心境、と私は思います。

本作には、「眞人が自分の頭に石を打ち付ける」「宇宙からきた石」
「石で作られた積み木」と、
「石(イシ)」のテーマが何度も繰り返されます。

これを単純に
「意志(イシ)」と読み換えれば凄くわかりやすい。

眞人は、大叔父の「イシ(意志)」を1つだけ持ち帰った。

宮崎駿の意志を全て受け継いだ人はいませんが、
その「意志」「志」は多くの人に受け継がれている。

そう、「宮崎駿の意志」は、私たち観客一人、一人の中にも、
間違いなく受け継がれている!
と私は思います。

それがわかると、『君生き』のラストのクレジットに、
「スタジオカラー」と「スタジオポノック」
の名前が見られるのは、感慨深いです。

自分はこの程度のことしかできなかった。
でも、その意志をちょっとだけでも受け継いで、
「新しいアニメの世界」、
あるいは「(悪意のない)平和な世界」を作って欲しい!

宮崎駿監督、長編アニメ12本の総括と最後のメッセージ。

『君たちはどう生きるのか』は、「わからない」「難しい」と言われますが、
宮崎駿からのメッセージと理解すれば、
とてもわかりやすい映画だと思います。

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