私が、映画公開前に映画の紹介を書くことはまずありません。
以前は、映画会社から試写状をもらって、
映画公開前に映画を見て、映画公開前に映画紹介、
ということをやっていましたが、
試写会で映画を見ると悪口が書けない。
まあ、「悪口」は書かないとしても、
自由な批評活動ができない。
どうしても足枷がかかってしまうのです。
ということで、最近では、いくつかの映画会社から
試写状は送っていただいていますが、
だいたいお金を払って、一観客として映画を見て、
一観客として好き勝手に書く、というスタンスをとっています。
とはいえ
どうしても樺沢に映画を見て欲しい。映画批評を書いて欲しい。
ということで、
試写状を送ってくださる映画会社の方がいましたら、
ウェルカムです(笑)。
ということで、珍しく、明日、5月4日(土)公開の
『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』を紹介します。
この作品、先日、ヨーロッパに行く機内で見たのですが、
物凄く良かったです。
一言で言うと。
「これぞ、アメリカ映画!!」
私が考える「これぞ、アメリカ映画!!」というのは、
アメリカの「良さ」も「悪さ」もひっくるめて、
生々しいアメリカを描き出した作品のこと。
アメリカという社会。
そして、アメリカ人の生々しい生き様を描いた作品が、
真の「アメリカ映画!!」なのです。
最近でいうと、『スリービルボード』が相当します。
さて、わざわざ公開前に私が『アイ、トーニャ』を
紹介するのは、まずこの映画がヒットしそうもないから、
です(笑)。
というと申し訳ないのですが、
日本人は「アメリカの文化」や「アメリカ人」に対して
ほとんど関心がない。
だから、
「アメリカの文化」や「アメリカ人」の生き様を
見事に描ききった傑作があっとしても、
それほど関心はないし、敢えてお金を払ってまで見ない。
もったいないですね。
おもしろい「アメリカ映画!!」は一杯あります。
しかし、その多くは日本で公開もされないし、
公開されても、ミニシアターで2週間ほどで
上映終了してしまう・・・という。
ということで、骨太な真の「アメリカ映画!!」を
見たい人には、『アイ、トーニャ』を強くお勧めします。
『アベンジャーズ』のようなベタな娯楽映画が好き、
という人は、決して見ないでください。
『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』。
女子フィギュアスケート選手のトーニャ・ハーディングの
人生を描き出しながら、
オリンピック出場を巡って争ったナンシー・キャリガンの襲撃事件
その真相が明らかにされていきます。
ドキュメンタリー風の作りをしながら、
作品にドンドン引き込まれていく。
トップ選手に上り詰めても、ウェートレスをして生計を稼いだり、
夫からの日常的な暴力など、
アメリカン・ドリームを目指す過程での、「影」
一番の見どころは、母親と娘の確執。
娘トーニャをフィギュアスケートで成功させようと、
自分の全ての時間とお金を子供のスケート教育に捧げる
超支配的、威圧的な母ラヴォナ(アリソン・ジャネイ)。
アカデミー賞、助演女優賞を受賞した彼女の演技は
見ごたえがありますが、正直、怖ろしい。
娘を支配しようとする母親。
それは、「愛」なのか、それとも「エゴ」なのか?
最後の最後まで見ないと、それはわからない。
そして、そんな強権的な母親と娘の「和解」は、ありえるのか。
樺沢の父性と映画について徹底分析した映画本
『父親はどこへ消えたか 映画で語る現代心理分析』
https://amzn.to/2jodgP2
の母親版を書くとしたら、15ページはかけて解説したいのが、
この『アイ、トーニャ』の母親ラヴォナの心理です。
『ブラック・スワン』の母親に匹敵するほどの存在感。
これは、ヤバイレベル。
そして、トーニャの旦那のアホっぷりもヤバイ。
どんなに能力のある女性も、付き合う男を間違えると
一生を棒に振るかもしれない。
そんな、悲しい物語でもあります。
人間、誰にでも「光」と「影」の部分があり、
それはアメリカ社会の「光」と「影」にも重なっていきます。
ドキュメンタリー風の映画といえばつまらなそうですが、
基本「コメディ映画」として作られている。
随所に笑いも入れながら、回想シーンを盛り込んだりと、
かなり凝った映画の作りになっています。
さらに最大の見どころは、
主演のマーゴット・ロビーのフィギュアの演技の再現シーン。
本物のトーニャ・ハーディングの演技を完コピした映像、
一体どうやって撮っているんだろうということも含めて、
凄い完成度です。
羽生結弦選手の活躍もあり、
日本でのフィギュアスケートの人気は
空前と言ってもいいかもしれない。
アメリカのフィギュアスケート界の裏舞台が赤裸々にわかるので、
フィギュアスケート・ファンも相当に楽しめる映画だと思います。
ということで、超見ごたえのある社会派コメディ(?)。
アメリカ映画の底力を見たい人は是非。
星評価は、★★★★☆ (4・8)。
と、かなりの高評価です。
追伸1
予告編だけでも御覧ください。
https://tonya-movie.jp/
追伸2
2018年度、ベストテン入り、ほぼ確定です。