書評/映画評

パーキー・パットの日々 ~コロナ時代を予見するディックの傑作

1週間ほど前から、
どうしても読み直したい小説があった。

それは、
フィリップ・K・ディックの
『パーキー・パットの日々』
である。

本の発行日から推測して、
1996年に読んだらしい。

フィリップ・K・ディックといえば、
映画『ブレード・ランナー』の原作となった
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』。
『トータル・リコール』
『マイノリティ・リポート』の原作などで有名な
SF小説家であり、
樺沢の最も好きな小説家の1人です。

重度のアルコール依存症、薬物依存症をかかえ、
重度の「妄想」を持っていたという。

彼の作品に登場する、
「自分は本当の自分じゃないかもしれない」
という考えは、フィクションではなく、
ディック自身にとっては、
ノンフィクションであったかもしれない。

ディック作品の短編で、
最も好きな作品が、
この『パーキー・パットの日々』である。

奇妙きてれつなこの作品に、
はかりしれない魅力が感じられる。

しかしなぜ、自分が本作に魅了されるのかが、
24年前には、今ひとつ、わからなかった。

しかし、
今、コロナ時代に本作を読み直して、
その謎が完全に解けた。

怖ろしいほどに未来を予見した本作に、
これぞ「SF小説」という、醍醐味を感じる。

あらすじは、こんな感じ。

火星人との水爆戦争で、人類はかっての豊かな生活を奪われた。

人々は、地下シェルターに暮らし、
空から投下される援助物資で生活している。

外に出られないわけではないが、
防護服が必要で、援助物資をピックアップする以外は、
まず外出することはない。

地下シェルターで人々は、
退屈な時間を何をしているのか?

パーキー・パットという女の子の人形と
古き良き時代(50年代、60年代頃のアメリカ)の街の
模型を使うシミュレーションゲームだ。

「パーキー・パット」というゲーム、
いくら読んでも、どんなゲームなのかがイメージしづらいのだが、

リカちゃん人形とリアルなジオラマを使った、
「人生ゲーム」のようなもの、と考えるといいだろう。

そして、人々の「パーキー・パット」への
熱中、傾倒ぶりが半端ない。

彼らにとっての唯一の楽しみ。
生きがいと言っても過言ではない。

カリフォルニア州に住むノーマンは、
ある日、他のシェルターで
「コニー・コンパニオン」という別な人形を使った、
ゲームが流行っていることを知る。

「コニー・コンパニオン」は、一体、どんな顔しているのか?
そして、「コニー・コンパニオン」を一度プレイしてみたい。

圧倒的な、
好奇心にかられるノーマン。

そして、25キロも離れた別シェルターの住人と、
彼らにとって「最も大切なもの」
「パーキー・パット」と「コニー・コンパニオン」を賭けた
勝負が行われることになる・・・。

という展開である。

多くの小説は、パターンを踏襲している。

ほとんどの話は、一度はどこかで読んだような話だが、
この『パーキー・パットの日々』は、類型不能であり。

こんな小説は一度も読んだことはない。
唯一無二である。

展開も予想不能。
そして、ラストも予測不能である。

最後まで読んでも、
「はあ?」と疑問しか残らない。

この小説の魅力は、
そう、シチュエーションのおもしろさだ。

「パーキー・パット」への熱中は、
過去への回顧であり、現実からの逃避だろう。

外出不能となった時代。
膨大な時間を、何をして過ごせば良いのか?

もっと建設的な時間の使い方が
あってもいいのではないか?

まさに、外出自粛で外に出られない私たちに、
フィリップ・K・ディックが問いかけている。

彼が、このコロナ危機の時代を予見したかのように。

水爆戦争による大気汚染と原因こそ違えど、
「人類が自由に屋外を闊歩できない時代が来る」
という点において、怖ろしいほどに未来を予測している。

そして、外出自粛中に、ゲームやテレビなどで、気を紛らわそうとする我々は、
「パーキー・パット」という、どうみてもおもしろそうには思えない
ゲームに熱中する人々と、何も変わらないのだ。

本作における唯一の希望。

それは、ノーマンの息子が語る。
「人形を使ったゲームなんかのどこがおもしろいんだろう?」
という指摘。

そう子供たちは、
「パーキー・パット」に全く無関心なのだ。

つまり、「過去」ではなく
「未来」を向いて生きている。

未来に希望を持てない絶望の時代であっても、
現実逃避なんかしてないで、
もっと他にやることがあるんじゃないのか?

「パーキー・パット」に興じる人々の姿を
精緻に描いただけのシンプルな本作だが、
考えるほどに、テーマがグサリと刺さるのだ。

最初に読んだときは全く違った
『パーキー・パットの日々』がそこは存在した。

さて私は、この膨大な時間に、
何をして過ごしているだろうか?

さしづめ、『執筆三昧の日々』だ。

これは多分、
パーキー・パットに没頭するよりは、
ましな時間の使い方と言えるだろう。

追伸
『パーキー・パットの日々』は、絶版になっているので、
紙の本では読めない。

たったの47ページなので、あっという間に読める短編だが、
一緒忘れられないようなインパクトを持った作品である。

Kindle電子書籍『変数人間』の中に納められているので、
この「ステイホーム週間」中に読んで欲しい。

『変数人間』(フィリップ・K・ディック著)

ただし、
「『パーキー・パットの日々』のどこがおもしろいんだろう?」
という突っ込みはなしで、お願いしたい。

私の「最も好きな短編小説」なのだがら、
一筋縄でいく話を選ぶはずがないじゃないか。

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