書評/映画評

樺沢紫苑が選ぶ!! 2017年映画ベストテン(その2)

樺沢紫苑が選ぶ!! 2017年映画ベストテン。
昨日のメルマガでは、1位と2位を発表しました。

読み逃した方は、コチラからお読みください
https://kabasawa3.com/blog/book-movie/2017movies_best10_vol1

さて、引続き、ベスト3の発表です。








第3位 『女神の見えざる手』

こちらの作品も、上映館数が少ないため、
見た人はものすごく少ないと思います。

映画公開直後に、このメルマガで超プッシュして紹介したので、
ちゃんとメルマガを読んでいる人は、見られたかと思います。

映画の「ドンデン返し」といっても、たいていは想像できます。

しかし、『女神の見えざる手』の後半やラストの展開を
予想できる人はいないのではないでしょうか。

ドンデン返しに次ぐ、ドンデン返し。

2017年、私の中ではベスト脚本賞の映画です。

戦略の天才。ロビイストの女神と呼ばれる超切れ者
ロビイストのエリザベス。

そんな彼女が、アメリカの不可侵領域でもある「銃規制」をめぐる
政治活動に巻き込まれていく、という政治サスペンス。

「ロビイスト」といっても、日本人にはどんな職業か
さっぱりわからないと思いますが、
そんなアメリカ政治の裏舞台を垣間見られるのも本作の魅力。

アメリカの文化や歴史など、
「アメリカの知られざる一面を描く」というのが、
私が考える真のアメリカ映画の魅力です。

この映画には、アメリカの明と暗の両方が描かれます。

権力が支配されるアメリカ、権力にかしづく人々。
そして、それを覆そうとする人々です。

勝利と金のために手段を選ばない女と思われていたエリザベス。

しかし、彼女が「銃規制」の法案だけは、
プライドと使命、そして自分の命すらなげうって通過させようとする。

正義というか、信念。
そこに、強く心を打たれます。

政治に生命をかける、とはこういうことです。

脚本、そして心理ドラマも両方楽しめる。

政治サスペンスなので、内容は少々難しい。
「大人のための大人の映画」といってもいいですね。

見逃さないで良かったです。

■ 続きまして、第4位の作品は







第4位 『ドリーム』

アメリカと旧ソ連が熾烈な宇宙開発競争を繰り広げていた1960年代初頭。
アメリカ初の有人周回飛行の成功に尽力したNASAに勤務する
3人の黒人女性の実話をもとにした作品。

アカデミー賞では3部門にノミネートされ話題になりましたが、
日本では全く話題にならなかったので、
見逃した人も多いでしょう。

この映画は、2017年。
私が、もっとも泣いた映画です。

1960年代初頭。
まだまだ、黒人差別が激しかった時代。
そうした差別を受けながら、仕事をしていくことの大変さ。

彼女たちの天才的な数学の才能に加え、
差別や偏見に負けない、精神的なたくましさ。
この両方が、最後に大きな感動を呼びます。

コンピューターがなかった時代、
ロケットの軌道の計算は、全て「筆算」で行っていた!
というのは、驚くべき話ですが、
コンピューターがないのだから、当然、そうなのだろうなあ、と。

第3位のところで書きましたが。
>アメリカの文化や歴史など、
>「アメリカの知られざる一面を描く」というのが、
>私が考える真のアメリカ映画の魅力です。

『ドリーム』も全くそういう映画。

そして、アメリカの美徳と恥部の両方が描かれる。

凄まじい、黒人差別と女性差別が普通に存在する
醜いアメリカ。

そして、その真逆。
本当に能力のある人が、最後には採用されて、
社会的に成功できる。
アメリカン・ドリームを実現できる!
という自由と平等のアメリカ

そんな、光と闇、善と悪。正義と不正が共存し、
何とかバランスをとっているのがアメリカという国。

こういう映画を見ると、それが本当によくわかります。

(正義のヒーローが、よくわからない「正義」、
自分たちにとった都合のよい「正義」を掲げて戦う、
身勝手な勧善懲悪のアメリカ娯楽映画の
何とつまらないことか・・・。)

アメリカ映画は薄いとか、浅いとか言う人がいますが、
そういう人は、『ドリーム』『女神の見えざる手』とか
本物のアメリカ映画を見ていないのです。

アメリカ社会の光と闇を描き出すディープなアメリカ映画は、
どうみても「深い」し、そして「おもしろい」のです。

■ 続きまして、第5位の作品は






第5位 『ブレードランナー 2049』

私が、映画『ブレードランナー』の原作である
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」
その作者である、フィリップ・K・ディックの大ファンであることは、
当メルマガ読者であれば、すでにご存知のことと思います。

今回の『ブレードランナー』の新作は、
ディックの原作ではないものの、その世界観を踏襲したものであり、
ディックが描き続けた「人間とアンドロイドの、何が違うのか?」という
テーマは継承され、深く掘り下げられているのです。

その点において、
本作品は私にとって、非常に興味深い作品となりました。

『メッセージ』の監督でもあるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の
哲学的な世界観と元祖SF映画らしい映像世界がたまりません。

これぞ、SF映画。
というか、SF映画ひさしぶりに見た~~!
という感慨。

それだけで万歳ものです。

想像以上に、
前作の『ブレードランナー』のストーリーを踏襲していて、
実は完全なる続編になっていた、という。

唯一、ラストシーンの解釈。
私は、他の人と逆を見る。

(以下、ネタバレしない程度に曖昧に書いておきます)

事件を通して自分探しをしていた
アンドロイドの主人公Kは、
最後に事件の真相を知って、
「絶望」して物語は終わる。

これは、絶望なのか。悲嘆なのか。

いずれにせよ、強烈な感情表現をするKは、
アンドロイドを超えて、人間以上に人間に近づいたのではないのか。

ある意味。アンドロイドが人間に進化した瞬間かもしれない。
そんな意味深なラストがたまらない。

正直、私は、賛否両論が別れる「ラストシーン」が大好き。
もちろん、私は常に少数派の意見の側に身をおくわけですが。

そんな意味でも、
『ブレードランナー 2049』は、好きな作品です。

追伸

AI時代が到来する前に読んでほしい小説。
私の大好きな小説「ベスト5」に入ります。

「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
(フィリップ・K・ディック著、ハヤカワ文庫)
https://amzn.to/2lganAi

またまた、長文になってしまった。
第6位、以後は、次回のブログで(笑)。