書評/映画評

すずめの戸締まり に魂を揺さぶられた!

【ストーリーについての言及があります】

新海誠監督の『すずめの戸締まり』を見ました。
 
最初の1時間は、ロードムービーのような、
淡々としたストーリー展開。

途中、「このままで、大丈夫か?」と不安になりますが、
後半からの伏線回収と謎(全体像)が明らかになり、
急にテンポアップし、号泣のラストシーンに突入します。
  
ネットを見ると、
「言葉での説明が多い」という指摘があるのですが、
私は「非言語的な情報」に圧倒されました。
 
クライマックスで号泣するシーンがありますが、
なぜ、自分が泣いているのかわからない。

論理よりも、感情。
いや、魂が揺さぶられる。
説明不能。
敢えて言葉にするのなら、圧倒的な「共感」「共鳴」。

 
では、何に共感、共鳴しているのか。
それは、人によって微妙に違うかもしれません。

私は精神科医なので、
●共感は、癒やし。
●言語化は、癒やし。
●自分を癒やすのは、自分しかいない。

という部分に共感しました。 

映画は、比喩、メタファーです。
様々なメタファーが込められた本作は、
様々な見方があると思います。

『すずめの戸締まり』。
「戸締まり」って何だ? だけで、いろいろと議論があるでしょう。

『すずめの戸締まり』というタイトル。
私は、「すずめの(トラウマの)戸締まり」
の話と理解しました。

自分のトラウマと向き合い、それを処理するのは「自分」しかいない。
誰かが助けてくれるわけではなく、
最後に頼れるのは自分!
しかない、という。
 
新海作品のこの三部作の共通性は、
頼れる大人、言うならば「父性」が登場せずに、
「大人になんか頼れないから、高校生の自分が何とかするしかない!」
というもの。

「幼児的万能感に支配された、中二病の高校生が世界を救う話し」
では、ないのです。

『君の名は』『天気の子』では、
男子と女子の二人三脚で物語が進みますが、
本作では「草太」がいきなりイスにされてしまい、
すずめが孤軍奮闘する話になっています。

三部作の中でも、「父性に頼らず、自分で何とかしろ!」
というテーマが極まっているのです。

被災地の描写がリアルで、被災者への配慮がない
という批判もあります。
では、今から10年先なら大丈夫なのでしょうか? 
というと、大丈夫ではないのです。

どこかで自分の心の傷と「向き合う」ことをしないと、
先に進めない。むしろ、トラウマが固定化していくでしょう。

本作の提言は、「そろそろ向き合おうよ」ということ。
震災に限ったことではありませんが、
自分のネガティブな過去やトラウマ。
「自分と向き合う」「自分の過去と向き合う」ことを通して、
自己受容し、どこかでクリアしていかないと、
前に進めないのです。

ちなみに、東日本大震災の被災直後に、
カウンセリングなどの心理的介入を受けた人はPTSDになりづらい、
という研究結果で出ています。

「つらい」「苦しい」は、我慢するのではなく、
できるだけ早く言語化した方がいいのです。
言葉にすれば、悩みもネガティブ感情も消えるのです。

敢えて「避ける」のではなく、敢えて「言語化」するのが、
真の癒やしに通じる最短距離です。

本作は、「震災」の話であるようで、
実は「震災」の話”だけ”ではありません。
アマテラスオオミカミ、そして岩戸開きをしたアメノウズメ、
日本が創世された時代から、無限に繰り返されてきた、
傷ついた心と再生の物語。
 
結界が破られたミミズを元に戻す、
「原状復帰」の物語ではないのです。

負の連鎖を断ち切って、そこにピリオドを打って、
次の時代を創世していこう! 
という壮大なテーマが隠されている気がします。

つまり、『シン・エヴァンゲリオン』のラストシーンの
ネオンジェネシスのようなものです。
 
『シン・エヴァンゲリオン』物理的な再生が行われましたが、
本作では、一人一人の「個」の意識改革、「個」の成長によって、
現実が変えられる! 
新世紀創造ができるという、超ポジティブなラストに私は感じます。

この登場人物も少ない、シンプルな物語に、
多面的、重層的な深いテーマをちりばめられたのは、
凄いことです。
 
今年見た映画の中で、
1、2位を争うクオリティであったことは、間違いないです。

『すずめの戸締まり』樺沢の評価は・・・ ★★★★☆ (4・8)

追伸
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